伊豆新聞連載記事(2010年11月7日)

伊豆ジオパークへの旅(23)

伊豆ジオパークの構成(9)中伊豆南ジオエリア(上)

火山学者 小山真人

 中伊豆北エリアに続いて、中伊豆南エリアのジオサイト候補地とそれらの見どころを説明していこう。このエリア内のジオサイトとして次の候補を考えた。すなわち、船原、湯ヶ島、鉢窪山(はちくぼやま)、滑沢(なめざわ)、天城峠、国士越(こくしごえ)、カワゴ平(だいら)、地蔵堂、丸野高原、遠笠山の10ジオサイトである。
 船原ジオサイトでは、およそ15万年前の伊豆東部火山群最古の噴火でできた船原火山列(本連載第1部第60回)が最大の見どころとなる。この火山列はほぼ南北に並ぶ3つのスコリア丘(きゅう)からなり、その南端から流出した溶岩がつくる台地の上に「天城ドーム」などのスポーツ施設が建設されている。こうした土地利用が注目されるほか、真ん中のスコリア丘につくられた採石場の大きな崖に、火山の見事な内部構造が観察できる。こうした火山をまっぷたつに切って解剖したに等しい場所は、伊豆では他に伊豆の国市の高塚山(同45回)や東伊豆町の堰口(せきぐち)火山(同73回)などがあるが、崖の規模、保存状況、観察の容易さから判断して現況では船原火山が一番であり、世界的な注目を浴びてもおかしくないものである。採石場は現在も操業中であり、立ち入りには許可が必要であるが、将来的には保全措置をとった上で末長く地域の財産としてほしい。
 国士越ジオサイトの見どころは、国士越火山列の噴火でできた火口群の地形と噴出物(同67回)である。国士峠付近の道路ぞいで多数の火山弾をふくむ爆発角れき岩が見られるほか、西に流れ下った溶岩流が伊豆市長野に台地をつくり、その上の平坦面に集落と農地を成立させている。
 カワゴ平ジオサイトの最大の焦点は、カワゴ平火山の噴火(同88〜92回)が残したさまざまな地形と大量の噴出物である。とくに伊豆市筏場(いかだば)付近の分厚い火砕流がつくる台地と、それを垂直にきざむ峡谷群が見事であり、峡谷の壁には火砕流とその上をおおうラハール(火山性土石流)の断面がまるごと観察できる。運が良ければ、火砕流にとりこまれた神代杉(じんだいすぎ)などの断片も見つけられる。さらに、火砕流の上をおおって流れた厚い溶岩流も見どころのひとつである。この溶岩は、気泡をたくさん含んだ珍しい軽石状のものであり、一部は黒曜石(こくようせき)化している。このため、下流の河原では黒曜石拾いも可能である。なお、筏場付近には、陸化前の伊豆の「最後の海」にたまった砂の層(同27回)も見つけることができる。

 

中伊豆南ジオエリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

伊豆森林管理署が所有する巨大な神代杉の標本。道の駅「天城越え」に展示されている。

 

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