伊豆新聞連載記事(2010年10月31日)
火山学者 小山真人
中伊豆北エリア内のジオサイト候補地の解説を続けよう。下白岩・加殿(かどの)ジオサイトには、伊豆ジオパークの最大のテーマとも言える伊豆の北上を語る物的証拠が見られる。それは伊豆市下白岩の石灰質砂岩(県指定天然記念物)であり、1100万年前の南洋で暮らしていた生物の化石が大量に含まれている(本連載第1部第9回)。この付近の狩野川ぞいには、同じ時代の海底火山から噴出した軽石や火山灰の乱泥流の地層(同7回)や、その地層面に沿ってマグマが入りこんでできた板状の岩体(シル)が観察できる。同時代の見事な乱泥流の地層は、となりの梶山ジオサイトの狩野川岸でも見られ、その近くには1930年北伊豆地震が引き起こした大きな地すべり跡も残っている。
横山・梅木(うめぎ)ジオサイトの最大の目玉は、陸化直前の伊豆の「最後の海」にたまった泥や砂利の地層である(同27回)。この地層は、小さな川や沢ぞいの崖などに少しだけ見られるが、100万年ほど前の海で暮らしていた生物の化石をたくさん含んでいて貴重である。冷川(ひえかわ)・柏峠ジオサイトには、美しい白色の軽石などの海底火山時代の噴出物が広く分布し、海底にできたと思われる溶岩ドームもある。伊東市との境界の柏峠付近には、陸化後の40万年前ころにできた溶岩ドームがあり、その一部から産する黒曜石は縄文時代の人々が矢じりやナイフとして重宝していた(同40回)。柏峠には明治期の主要街道として使われていたトンネルの遺構もある。
北大見ジオサイトでは、陸上大型火山のひとつ宇佐美火山(同34回)の西斜面にあたる地形や溶岩流が見どころである。溶岩流上の平坦面を利用したワイナリーや農地・別荘地・ゴルフ場などの土地利用にも注目したい。高塚山・巣雲山ジオサイトは、13万1000年前に噴火した伊豆東部火山群最北の火山列(同43〜48回)が最大の目玉である。高塚山の採石場跡と巣雲山の伊豆スカイラインぞいの切り割りで両火山の内部構造が観察可能であり、長者原火口は農地やオートキャンプ場としても利用されている。このサイトでは、箱根火山の噴火で降りつもった黄色やオレンジ色の軽石層(同50回)がつくる美しい縞々もしばしば観察できる。浮橋(うきはし)ジオサイトでは、何と言っても丹那断層の南方延長にあたる活断層・浮橋断層(同102〜103回)がつくる直線状の崖や、断層運動でできた浮橋盆地、田原野盆地などの地形も見どころである。
下白岩石灰質砂岩。下白岩・加殿ジオサイト候補地の目玉である。
宇佐美火山の溶岩流の断面が見られる崖。北大見ジオサイト候補地。