伊豆新聞連載記事(2010年10月24日)

伊豆ジオパークへの旅(21)

伊豆ジオパークの構成(7)中伊豆北ジオエリア(上)

火山学者 小山真人

 本連載の第16回で、伊豆半島の中部に「伊豆市北・伊豆の国市エリア」と「伊豆市南エリア」を置いたが、覚えにくく語呂が悪いので、それぞれ「中伊豆北エリア」と「中伊豆南エリア」に改名する。両エリアは、行政区としては旧土肥町を除く伊豆市と伊豆の国市のほぼ全域に相当する。この両エリアの地学的な特色は、分布する地層の年代幅が他のエリアよりも広いことである。伊豆最古の地層である仁科層群(西伊豆・松崎エリアのみに分布)を除くすべての時代の地層、年代範囲で言えば1500万年前以降の地層がそろっていることになる。しかも、この両エリア内の地形は比較的なだらかで大きな峠もなく、交通の便もよいため、効率的な見学が可能である。ただ、内陸に位置することから、他のエリアのように海岸の大きな崖で地層が観察できない点が不利である。しかし、この欠点を補ってくれる採石場や、その跡地の崖がいくつかあって心づよい。
 まず、中伊豆北ジオエリアから、その中身を見ていく。このエリア内のジオサイトとして次の候補を考えた。すなわち、伊豆長岡、城山(じょうやま)・葛城山(かつらぎやま)、大仁、修善寺温泉、梶山、下白岩・加殿(かどの)、横山・梅木(うめぎ)、冷川(ひえかわ)・柏峠、北大見、高塚山・巣雲山、浮橋(うきはし)の11ジオサイトである。
 伊豆長岡ジオサイトには古くからの温泉街があり、周囲の山も海底火山の噴出物でできているが、地層観察の適地は少ない。他に類を見ない目玉となりえるのが、狩野川台風の被害をきっかけに作られた巨大な防災施設である狩野川放水路である。こうした施設は、先進的な防災対策をテーマのひとつに据える伊豆ジオパークの白眉と言えよう(本連載第13回)。さらに、北伊豆地震の揺れが魚雷の表面に偶然記録された「地震動の擦痕(さっこん)」(国指定天然記念物)も再評価すべきである。
 城山・葛城山ジオサイトでは、海底火山の根(本連載第1部第17回)にあたる山々と、その崖に見られる美しい柱状節理が最大の魅力である。特異な岩山の風景が訪れる者の目を引く城山は、伊豆を代表する巨大な「火山の根」のひとつである。となりの葛城山にはロープウェイで簡単に登山できる。城山の近くの採石場や採石場跡では、見事な柱状節理を見ることができる。
 大仁ジオサイトの見どころは、保存された金山跡や狩野川台風関係の史跡である。修善寺温泉ジオサイトは、海底火山から噴出した分厚い軽石の層や、旭滝に代表される火山の根、独鈷(とっこ)の湯で知られる由緒ある温泉街が魅力である。

 

中伊豆北ジオエリアのジオサイト候補地とその見どころ。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

城山の近くにある白鳥山の採石場。全山すべてに美しい柱状節理が見られる。見学には採石場の許可が必要。

 

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