伊豆新聞連載記事(2010年10月17日)

伊豆ジオパークへの旅(20)

伊豆ジオパークの構成(6)西伊豆・松崎ジオエリア(下)

火山学者 小山真人

 西伊豆・松崎ジオエリア内のジオサイト候補地の解説を続けよう。堂ヶ島・仁科港ジオサイトは、このエリアだけでなく、伊豆ジオパーク全体として見ても白眉と言える場所であり、世界的にもまれな海底火山の美しく多様な地層断面が観察できる。西伊豆屈指の観光地でもある堂ヶ島海岸の崖には、海底火山の噴火にともなう水底(すいてい)土石流と、その上に降り積もった軽石・火山灰層が見られる(本連載第1部第14〜15回)。この崖には、波がうがった洞窟(海食洞)である「天窓洞(てんそうどう)」もあって貴重である。その北の浮島(ふとう)海岸には、かつての海底火山にマグマを供給した岩脈群(火山の根)が見られ(同17回)、南の仁科港付近の海岸では、同じ土石流のほかに海底を流れた溶岩も観察できる。まさに太古の海底火山をつくっていたパーツのひとつひとつが、後の浸食によってあらわになっているのである。また、この溶岩流にはさまれる白色の海底火山灰層に中世の磨崖仏(白岩山岩壁窟画)が掘られており、自然と人間文化との関わりの一端を知ることができる。
 仁科港付近のものと同じ海底溶岩流は、松崎・桜田ジオサイトの海岸(弁天山)と、岩地(いわち)・石部(いしぶ)・雲見ジオサイトの北部にも見られる。さらに後者では、この溶岩流の上に重なる厚い軽石層(これも海底火山の噴出物)の採石場遺構である室岩洞(むろいわどう)があって貴重である。さらに、雲見の烏帽子山は、標高160メートルを越える高さにそびえる火山の根であり、山頂からの眺めも素晴らしい。石部の棚田を流れる豊富な水は、その上流にある蛇石火山の溶岩流のすき間からわき出る湧水であり、火山の恵みのひとつである(同133回)。
 仁科川・宝蔵院ジオサイトでは、海底火山から噴出した枕状溶岩や水底土石流の地層が見られる(同第3〜4回)。これらは伊豆最古の地層である仁科層群(2000万〜1500万年前)の一部でもある。また、火山灰が一団となって海底をなだれ下った乱泥流(らんでいりゅう)の地層(1400万年前)や(同7回)、南洋の化石を含む石灰岩や石灰質砂岩の地層(同9回)も見ることができる。
 大城・宮ヶ原ジオサイトでは、太古の巨大地すべりと、そのせき止め湖として生まれたとみられる盆地の地形が観察できる。この付近の地下からくみ上げている「天城深層水」も、ジオパーク関連の良い土産物となるだろう。池代・長九郎山ジオサイトでは、海底火山とその上に重なる陸上火山(長九郎火山)までの見事な断面が川と林道ぞいで見られるが、今後の交通や安全面の整備が課題である。

 

浮島海岸に見られる火山の根(岩脈)。地下の板状の通路内でマグマが冷え固まってできた。

 

松崎町の室岩洞。海底にたまった厚い軽石層を採石した跡地である。

 

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