伊豆新聞連載記事(2010年10月3日)
火山学者 小山真人
伊東ジオエリア内のジオサイト候補地の解説を続ける。大室山ジオサイトは、伊豆東部火山群で最大かつ最も美しいスコリア丘・大室山(本連載第1部82回)の地形と山頂からの眺めが最大の売りである。そのふもとでは、溶岩流出口にフタをした溶岩ドームである岩室山と森山(同83回)、美しく成層したスコリアと火山灰(同84回)、溶岩流の表面にできたスコリアラフト・陥没孔などのさまざまな造形(同87回)が観察できる。
大室山の噴火がもたらした地形や事物は広範囲にわたって分布するため、ジオサイトは大室山とその周囲だけでなく、他の箇所にも複数設定する必要がある。そのうち最も重要かつ美しいものは、大量の溶岩が相模湾に流れこんでできた城ヶ崎海岸と富戸(ふと)温泉街の海岸である(同85〜86回)。これらを地理的に南北に分け、それぞれ富戸・城ヶ崎海岸北ジオサイト、城ヶ崎海岸南ジオサイトとした。両者ともに、溶岩流の表面地形や柱状節理などの造形が見事である。後者のかんのん浜には美しい球形の穿孔岩体をもつポットホールという切り札もある(同87回)。また、前者においては払(はらい)漁港と富戸海岸の間にある高さ150メートルの海食崖(かいしょくがい)と、大室山の溶岩流がつくる低い海岸線との地形的なコントラストも見事である(同58回)。池ジオサイトでは、大室山の溶岩流によってできたせき止め湖跡と、明治以後のトンネル掘削による干拓事業が最大のテーマとなる。
伊雄山(いおやま)・赤窪ジオサイトでは、伊雄山火山の溶岩流が相模湾を埋めてつくった浮山(うきやま)溶岩台地の地形と土地利用や、赤窪火山の溶岩流がつくる中の崎(同76回と95回)などが売りとなる。矢筈山(やはずやま)ジオサイトでは、伊豆東部火山群の陸上での最新の噴火(約2700年前)でできた溶岩ドームである矢筈山と孔ノ山(あなのやま)(同94回)の地形が見事である。奥野・門野(かどの)ジオサイトでは、奥野付近の険しい山地に見られる海底火山の噴出物、門野火山がつくった溶岩台地(同54回)、伊東大川の谷に流れ込んだ大室山の溶岩流(同85回)、奥野ダムと地域社会などがテーマとなる。鉢ヶ窪・小川沢ジオサイトでは、伊東温泉街の周囲に大量のスコリアを降りつもらせた鉢ヶ窪・馬場平火山の地形や噴出物(同72回)、その付近に湧き出す大量の地下水とその利用(同133回)、小川沢にかつてあった化石湖と「赤牛伝説」との関係などが大きな見どころとなりえるだろう。
大室山(写真中央やや上)から流出した溶岩によるせき止め湖の跡(写真下部の盆地)。池ジオサイトのテーマである。
分厚い鉢ヶ窪スコリア層の中に掘られた防空壕の跡。写真左から右に傾く縞々が美しい。伊東温泉ジオサイトの目玉として末長く保存したい。