伊豆新聞連載記事(2010年9月19日)

伊豆ジオパークへの旅(16)

伊豆ジオパークの構成(2)ジオエリアの設定

火山学者 小山真人

 伊豆半島全体をひとつのジオパークとして考えた場合、かなり大型の部類に入ると前回述べた。その中に多数のジオサイトが設置されたとすると、全体として雑然とした印象を与える恐れがある。さらに、伊豆半島は数百〜1000メートル級の分水嶺によって狩野川と他のいくつかの河川の流域に分けられる。分水嶺を越える主な峠は、熱海峠、亀石峠、冷川峠、鹿路庭(ろくろば)峠、天城峠、仁科峠、船原峠、戸田峠などであるが、いずれもそう気軽に行き来できる峠ではない。つまり、これらの峠は明確な地理的・心理的障壁であり、生活圏の境界にもなっている。また、地形・地質的な面から見ても、各地域には明確な特色がある。
こうした点を考慮すると、伊豆全体をまるごとひとつのジオパークとして扱うよりは、事前にいくつかのエリアに分けておいたほうが、管理運営側にとっても旅行者側にとっても有利な面が多い。実際に、丹後半島から鳥取砂丘までの3府県3市3町にまたがる山陰海岸ジオパークでは、領域内を12の「ジオエリア」に区分して観光客の便宜を図っている。伊豆半島に対しては、どのようなジオエリア区分をすべきだろうか?
 先に述べた分水嶺などの地理的障壁や行政界、交通路の状況、ジオサイト候補の分布と特徴などを考慮した上で、伊豆ジオパークに対する筆者のジオエリア区分案をまとめてみた。この案では伊豆全体のジオサイト候補地を12のジオエリアに区分する。それらに代表的な地名を冠して、丹那エリア、熱海エリア、伊東エリア、河津・東伊豆エリア、下田エリア、南伊豆エリア、西伊豆・松崎エリア、土肥エリア、大瀬(おせ)崎・戸田(へだ)エリア、三島・沼津エリア、伊豆市北・伊豆の国市エリア、伊豆市南エリアと名付けた。沼津はもともと伊豆国ではなく、現在も伊豆の市町と距離を置いているように見えるが、地形・地質学的に見れば伊豆と完全に一体であるため、あえてここに含めた。また、伊豆と本州との衝突境界が観察できる小山町も飛び地としてぜひ加えたい。つまり、ジオエリアの総数は飛び地も含めて13となる。
 各エリアの中には、5から20程度のジオサイト候補地が含まれる。たとえば、西伊豆・松崎ジオエリアには、黄金崎(こがねざき)、堂ヶ島・仁科港、松崎・桜田、岩地・石部・雲見、池代・長九郎山、仁科川・宝蔵院、大城・宮ヶ原という7つのジオサイト候補地を含む。これらの候補地は、現時点で筆者が思いつくものを数え上げたものであり、今後の調査研究の進展にしたがって増加や統合が見込まれる。次回以降、各ジオエリアとそこに含まれるジオサイト候補地の特徴を紹介していく予定である。

 

伊豆半島を12地域に区分するジオエリアの試案。灰色の太線は主要な分水嶺。

 

伊豆ジオパークの飛び地として指定すべき小山町エリア。

 
 

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