伊豆新聞連載記事(2010年9月12日)

伊豆ジオパークへの旅(15)

伊豆ジオパークの構成(1)ジオサイトという単位

火山学者 小山真人

 ジオパークのテーマが設定できたら、次にすべきことはテーマに沿った保全対象の洗い出しと学術的な位置づけ、そしてそれらに対する平易な解説の作成と提示である。ジオパークとしての保全対象は、当然のことながら価値ある地形・地質的な事物であり、それらを安全かつ快適に観察でき、かつそうした状況を将来的にも保全していくことが可能と見込まれる領域を「ジオサイト」として指定することになる。「サイト」とは、場所とか土地の意味である。もっとやさしく言い換えれば、ジオサイトとは、ジオパークの売りとなる「目玉スポット」のことである。各ジオサイトには、見栄えの良い解説看板が建てられ、可能な場合は遊歩道や駐車場・トイレ・安全柵などが整備されることになる。ジオサイトは、史跡名勝などの既存の観光スポットに新たな解説を加える形で設置することもあるし、まったく新しいスポットとして整備する場合もある。
 ジオサイトは、歩いて回れる距離にある一連の事物をまとめて「○○ジオサイト」などと代表的な地名をつけて指定することが多い。つまり、ひとつのジオパークの中に、いくつものジオサイトが配置されることになる。個々のジオサイトは、それぞれのテーマとストーリー(景観や事物の成り立ちにまつわる物語)をもつ。テーマは単一のこともあれば、複数のものが組み合わされることもある。ジオパークを訪れる観光客は、事前にガイドブックやホームページで得た情報や、ジオパークの中に設置されたビジターセンター等で得た情報にもとづいて自分の行きたいジオサイトをいくつか選んだ上で、それらをみずから、あるいはジオパークガイドの案内によって周遊し、それらを成り立たせた大地の壮大な営みに思いをはせることになる。
 前回まで述べてきたように、ジオパーク自体にも明確なテーマとストーリーが設定されるため、ひとつのジオパークが占める面積も限定的となる場合が多い。地域それぞれが独自の地形・地質的特徴や歴史をもつことが多いため、地域が異なればテーマも異なるからである。また、観光客にとっても、あまりに広すぎるジオパークよりは、ある程度面積が限定された方が旅行計画を立てやすいだろう。こうした事情から既存の日本のジオパークは面積1000平方キロメートル以内のものが多いが、伊豆半島の面積は1400平方キロメートルをゆうに越える。伊豆全域がべたにジオパーク指定を受けるわけではないが、その中に多数のジオサイトが設置された将来の姿を考えれば、伊豆半島はジオパークとしては大型の部類に入ることになる。

 

地層が見える崖の前に建てられたジオサイトの解説看板。糸魚川ジオパークのもの。

 

同じ解説看板の拡大写真。西伊豆にもある枕状溶岩(海底を流れた溶岩)を解説している。

 
 

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