伊豆新聞連載記事(2010年9月5日)

伊豆ジオパークへの旅(14)

伊豆ジオパークのテーマ(8)みんなが考えるテーマ

火山学者 小山真人

 前回までに述べた伊豆ジオパークの5つのテーマは、あくまで火山学者・地質学者・防災学者としての筆者の視点にもとづく、大地の研究成果そのものに立った提案である。当然のことながら筆者の把握が不十分な関連分野においても、伊豆特有の地形・地質があってこそ成立した事物や無形物が多数存在することであろう。また、分野の壁や文理の壁を越えた共同研究から今後生み出されていく成果もあるだろう。
 たとえば、伊豆特有の地形・地質は、独自の植生をつくり出し、さらには独自の動物群を海陸双方で養っていると思われるが、その方面での筆者の知識は十分でない。こうしたテーマを追求する上で重要なことは、本当に伊豆独自の自然が必要条件であったかどうかである。たとえば、ヒグマやエゾシカは北海道の至る所にいるのに、それがあたかも世界遺産・知床半島の独自性であるかのごとく語る本や番組には不信感を覚える。まずは、伊豆の特産物である動植物の生育に、本当に伊豆の地形・地質が生んだ独自の自然環境が必須であったかどうかを検証していくべきであろう。少なくともワサビに関しては、その生育に必要な多量の湧水をもたらしているのが独特の地質構造であることは、これまでの研究成果から明確に主張できる。こうした研究事例を地道に積み重ねるべきである。
 さらに、すでに述べた第5のテーマに包含されることであるが、伊豆独特の地形・地質は宗教や民俗に影響を与えるとともに、数々の文学や芸術作品を生み出す素材となったと考えられる。こうしたこともジオパークの魅力を語る上での重要な要素である。たとえば、下田市の白浜神社や三島市の三嶋大社がまつる火山神の系譜は、伊豆周辺の噴火史と密接に関連している(本連載第1部第115回)。また、河津町の観音山石仏群は、その場所に適度な固さ・粒度をもつ海底火山灰の地層があったがために、そこに彫られることとなった。さらに、作家の吉村昭は「闇を裂く道」の中で丹那断層と1930年北伊豆地震、「落日の宴」の中で下田市を襲った1854年安政東海地震と津波を描いており(第104および116回)、三島由紀夫も数々の作品の中で伊豆の地形や地層を驚くほど写実的に描写している。こうしたことも伊豆ジオパークを楽しむための重要な要素である。
 以上述べたことは筆者が把握しているわずかな例に過ぎない。伊豆に住む人々、伊豆を愛する人々がジオパークにまつわる新たなテーマを探索し、提案していってほしいと願う。

 

伊豆の山間の無数の沢に作られているワサビ田。豊富な水量は湧水によるものが多い。

 

河津町の観音山石仏群。背後は海底火山の噴出物からなる地層。

 
 

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