伊豆新聞連載記事(2010年8月15日)

伊豆ジオパークへの旅(11)

伊豆ジオパークのテーマ(5)生きている伊豆の大地(下)

火山学者 小山真人

 伊豆ジオパークの第4のテーマ「生きている伊豆の大地」が含む2つのサブテーマのもう片方は、「地殻変動と活断層によって姿を変えゆく大地」である。つまり、今もゆっくりと本州にめりこみつつある伊豆の大地の変形がこのサブテーマの主題であり、具体的には大地を深く切り刻みつつある活断層群と、隆起・沈降や回転運動などの地殻変動を指す。
 フィリピン海プレートに乗って移動を続けた伊豆の大地は、100万年ほど前に本州に衝突を開始し、60万年ほど前に現在の半島の形となった(本連載第1部第1〜2回と第24〜28回)。本州との合体後も、依然として伊豆の大地は本州を北西方向へと押し続けており、本州側に大きな変形を与えるとともに、自分自身も少しずつその姿を変えつつある。こうした変形には、大きく分けて断層活動、上下変動、回転運動の3つがある。
 このうち、もっとも明瞭な証拠を残しやすいものが断層活動である。断層は、大地そのものがある面を境にして断ち切られた傷あとであり、その活動が現在も進行中のものを活断層と呼ぶ。活断層のずれは不連続的に急激に起きるため、それにともなって被害地震を起こすことがある。このため、活断層は防災的な視点からも重要である。活断層のずれは、尾根や谷などの地形のずれによって認識できる。また、活断層ぞいの岩石が細かく砕かれて浸食を受けやすいため、活断層に沿って直線的な谷間が生じることもある。伊豆には、丹那断層と石廊崎断層に代表される数多くの活断層の分布が知られており、大地の雄大な動きを実感することができる(第1部第102〜108回)。
 大地の上下変動については、隆起を示す証拠は海岸段丘や波食(はしょく)地形、石灰質の殻をもつ生物の遺骸(いがい)などであり、それらが伊豆の東海岸のところどころに残されていて貴重である(同第113〜114回)。一方で、沈降の証拠の大部分は海面下か地下に入ってしまうため、ボーリング調査などでその痕跡が見つけられている。地表では、松崎町-下田市間や南伊豆町内の分水嶺の位置が西に偏っていることから西海岸の沈降を実感できる(同第114回)。大地の回転運動に関しては、地層や岩石中の地球磁場の化石でしかそれを知ることができないが、伊豆市・熱海市・伊東市内などで数々の驚異的な研究成果が得られている(同第28回と第109〜112回)。

 

南東上空から見た石廊崎断層(向き合う矢印の間の直線的な谷間)。

 

下田市須崎の海岸に残る隆起地形の例。階段状に数段の波食台と波食窪が見られる。人が立つ面は下から3段目の波食台。

 
 

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