伊豆新聞連載記事(2010年8月8日)
火山学者 小山真人
筆者が提案する伊豆ジオパークの5つのテーマ(本連載第7回参照)のうちの第4のテーマは、「生きている伊豆の大地」である。このテーマは、現在進行中の伊豆の大地の二大活動とも言えるマグマ活動、ならびに地殻変動・断層活動をとりあげたものである。前者は当然のことながら伊豆で唯一の活火山である伊豆東部火山群が主題であり、後者は今も本州にめりこみつつある伊豆の大地の変形が主題となる。後者は、より具体的には大地を深く切り刻みつつある活断層群と、海岸や内陸の地形・地質に表れた大地の隆起・沈降や回転運動をさす。つまり、この第4のテーマは、「4A:多種多様の地形と造形をもたらし現在も活動中の小火山の集合体・伊豆東部火山群」と、「4B:地殻変動と活断層によって姿を変えゆく大地」という2つのサブテーマに分割できる。
前者の伊豆東部火山群は、日本のほとんどの活火山とは異なる、際だった特徴を備えている。それは、日本のたいていの火山が休止期間をはさみつつもほぼ同じ場所から何度も噴火し、結果として大きな火山体を成長させてゆく「複成(ふくせい)火山」に分類されるのに対し、伊豆東部火山群は「単成(たんせい)火山」の集まりだということである(本連載第1部第32および41回参照)。単成火山とは、一度だけ噴火した後は二度とその場所では噴火せず、結果として小型の山体をつくるタイプの火山のことである。
日本のようなプレート同士がせめぎあい、片方のプレートがもう片方のプレートの下に沈み込んでいく場所の地下にはつよい圧縮力が働くため、マグマはなかなか地表への通路を見つけにくく、いったん通路を確保した後は、それを何度も使用する場合が多い。このため、日本付近を始めとしたプレート沈み込み帯の火山には、圧倒的に複成火山が多くなっている。
ところが、伊豆の地殻は、本州との衝突によってきわめて大きな圧縮力を受けた結果、押しつぶされ、左右に引き伸ばされている。こうした場所の中は、どの部分でも地下の岩石に割れ目ができやすく、その割れ目を利用してマグマがたやすく上昇できる。そのため、何もわざわざ同じ火口を使用する必要はないのである。結果として、地表のあちこちにマグマが噴出して単成火山の群れをつくっている。こうしたプレートが沈み込む場所の近くで単成火山だけが群れをなす例は、世界的に見ても稀であり、伊豆東部火山群は学術的に貴重な事例なのである。
複成火山の代表格である富士山と、伊豆東部火山群(単成火山群)の代表格である伊東市の大室山。
伊豆東部火山群に属する河津町の鉢ノ山から噴出した美しいスコリア(暗色の軽石)の層。