伊豆新聞連載記事(2010年6月27日)
火山学者 小山真人
フランスのオーヴェルニュ火山国立公園では、公園名に「火山」と銘打つだけあって、単に美しい景観を売り物にするだけでなく、それが火山の造形であることを積極的に前面に出した観光を展開している。その例を紹介していこう。
本連載の第1部「伊豆の大地の物語」第46回でも紹介したが、オーヴェルニュ地方にあるシェヌ・デ・ピュイ火山群の中に、注目すべき施設「ヴォルカン・ド・ロンテジー」がある。ここにはかつて大室山を小さくしたような火山(ロンテジー火山)があったが、噴出物である暗色の軽石(スコリア)が建材として有用なため、採石場がつくられた。その後、山体がほとんど原型をとどめないほど採石された後に立入禁止となっていたが、残された崖や地面に火山の内部構造がよく見えている。それらは美しく成層したスコリア、かつてのマグマの通路である岩脈、噴出した火山弾や溶岩流などである。いずれも普段は地下にあって目にできない貴重なものであるため、別名「火山のオープンエア・ミュージアム」として公園化されたのである。公園の入口にはビジターセンターがあり、資料展示室のほかビデオ上映ホールと売店・レストランがある。シーズン中はガイドが公園内を案内してくれる。園内には遊歩道やミニトレインが整備され、見学ポイントには美しい説明看板が立てられている。
ひるがえって伊豆半島内を見ると多数の採石場があり、それらの中には廃墟となっているものも少なくない。土肥金山などの鉱山跡を観光に活かしている例はあるが、採石場の跡地は何の価値もないと思われがちであり、学術的にきわめて貴重なものが捨て置かれている。こうした現状に早く気づいてほしい。上述したフランスの例にまさるとも劣らない見事な火山の内部構造が観察できる採石場として、伊豆の国市の高塚山(本連載第1部の第45回参照)、東伊豆町の稲取火山列(第73回)、伊豆市の船原火山(第60回)の3つが挙げられる。また、火山の「根」にあたる岩体(第17回)や、かつての海底火山の一部を採掘している例も多い。たとえば、伊豆の国市小室付近の採石場で見られる柱状節理や、西伊豆町一色の採石場にみられる海底火山の断面は、世界に誇るものである。こうした貴重な崖は、すべて将来の伊豆ジオパークの見学地点(ジオサイト)の候補となりえる。
「火山のオープンエア・ミュージアム」の内部。一見たんなる採石場跡だが、遊歩道や看板がつけられ、公園として整備されている。
「火山のオープンエア・ミュージアム」のホームページ。楽しげな火山公園の雰囲気がたっぷり。