伊豆新聞連載記事(2010年6月20日)

伊豆ジオパークへの旅(3)

大地の公園(3)フランスの火山公園(1)

火山学者 小山真人

 「伊豆ジオパーク」の中身に入っていく前に、少しだけ他国の類似例について紹介しておきたい。ジオパークという枠組みは最近作られたものであり、それ以前から「ジオパーク」的なことを精力的に実践している地域がいくつかある。その中には必ずしも現時点でジオパークの指定を受けていない所もあるが、先進事例として学ぶべきことは多い。ここではフランス中部のオーヴェルニュ地方の取り組みを紹介する。
 フランス第2の都市リヨンの西に位置するオーヴェルニュ地方は、フランス中央山塊と呼ばれる高原地帯の一角を占め、なだらかな丘陵とそれにはさまれた広い谷間が延々と続く土地である。この地方は「火山の国」として、その名をフランス中に知られている。なぜなら、この地域には何千もの小さな火山が分布し、それらがつくる美しい地形や風景が国立公園「オーヴェルニュ火山公園」の指定を受けているからである。
 オーヴェルニュ地方の首府は、クレルモン・フェラン市である。11世紀に十字軍の派遣を呼びかけたクレルモン公会議の開催地であるこの町は、圧力の単位に名を残す17世紀の科学者・思想家パスカルの出身地、タイヤメーカーや旅行ガイドブックで名高いミシュラン社の本拠地としても知られる。
 クレルモン・フェラン市の西側の高原に南北に広がるシェヌ・デ・ピュイ火山群は、オーヴェルニュ地方を代表する火山群のひとつであり、合計およそ100個の単成(たんせい)火山の集合である。単成火山は、ただ一度の噴火によって小さな山体をつくるタイプの火山であり、伊豆東部火山群も単成火山の集まりである。両火山群は、活動期間・火山数・分布面積など、似ている点が多いが、最近数千年についてはシェヌ・デ・ピュイ火山群の方が不活発で、もっとも新しいと考えられている噴火はおよそ6000年前のものである。
 実は、私たちはシェヌ・デ・ピュイ火山群の姿をたびたび目にしている。日本でよく見かけるフランス産のミネラルウォーターに「ボルヴィック(Volvic)」がある。そのラベルには、緑におおわれた火山群の絵が描かれている。富士山や伊東市の水道山の例でわかるように、火山地域には豊富な湧水が見られる。火山群の北部に位置するボルヴィック村では、そうした湧水をペットボトルに詰め、「火山の名水」として世界中に輸出しているのである。

 

フランスの略図と中央山塊の位置

 

シェヌ・デ・ピュイ火山群の全景。ミネラルウォーター「ボルヴィック」のラベルにも描かれている。

 
 

もどる