伊豆新聞連載記事(2010年6月13日)
火山学者 小山真人
昨年夏、川勝平太・静岡県知事が県議会で、伊豆が地域一丸となってジオパーク指定をめざすべきと答弁した。その後、知事は関係者を説いて回り、現在では伊豆の各市町がジオパーク構想につよい関心を寄せているようである。また、及ばずながら筆者も、県と伊東市のジオパーク検討会議のアドバイザーに任命された。
ジオパークとは、最近ユネスコが支援を始めた国際プログラムであり、同じユネスコが主導する「世界遺産」と比較して説明されることが多い。「ジオ」は「大地」や「地球」などを意味する接頭語であり、たとえば地理学・地質学を英語で言うと、それぞれジオグラフィー・ジオロジーとなる。しかし、ジオパークは、単なる世界遺産の地形・地質版ではない。世界遺産が保護を主目的とするのに対し、ジオパークは「公園(パーク)」という言葉からわかるように、その保全だけでなく活用を積極的に唱っている。世界遺産の指定は観光客を締め出す場合もありえるが、ジオパークはむしろ逆であり、その土地がもつ地形・地質の魅力を前面に打ち出した新しい観光・知識啓発事業を地域が一丸となって提案・実践し、それにもとづいた地域振興を図っていく場として位置づけられている。
このため、ジオパーク指定を受けるためには保全対象の価値を訴えるだけでは全く不十分であり、地域住民による知的な観光・啓発活動の実績が重要な審査対象のひとつとされている。つまり、ジオパークに選ばれるためには、保全対象の洗い出しと学術的な価値づけにとどまらず、地域住民と行政の連携による運営組織づくり、「ジオサイト」と呼ばれる見学スポットや見学コースの整備、ガイドの養成と「ジオツアー」の企画・実施、ジオパーク関連の商品開発など、やるべきことは実に多種多様である。
また、それらに先だって、何よりも伊豆の地形・地質の世界的価値を地域住民や観光客に理解してもらうための平易なテキストが必要である。その意味で、本連載の第一部「伊豆の大地の物語」はタイムリーなものであり、今秋には単行本化される予定である。しかしながら、第一部は通史・総論的な話が主体であり、ジオツアーが実際に始まった時には「各論」に相当する、各ジオサイトのみどころを語るガイドブックが別途必要となるだろう。それが、この連載第二部のめざすところである。
ユネスコのホームページで紹介されている洞爺湖有珠山ジオパーク。現時点で日本の3つの地域が世界ジオパークとして認定されている。