伊豆新聞連載記事(2009年7月12日)

伊豆の大地の物語(98)

伊豆東部火山群の時代(58)噴火史のまとめ(下)

火山学者 小山真人

 伊豆東部火山群のマグマだまりは、どこにどのような形で存在するのだろうか? 各火山で噴出したマグマの種類は、この答を知るための重要な手がかりとなる。伊豆東部火山群では、その分布の外寄りに粘りけの弱い玄武岩(げんぶがん)質マグマだけが噴出する領域(玄武岩領域)が存在する。玄武岩領域の内側には、玄武岩質マグマに加えて、より粘りけの強い安山岩(あんざんがんしつ)や流紋岩(りゅうもんがん)質のマグマが噴出する領域(安山岩/流紋岩領域)がある。安山岩質や流紋岩質のマグマは、玄武岩質マグマが地殻の一部を溶かし込んだり、異なる種類のマグマが混ざり合ったりしてできる。一方、地震波を使って地下構造を調べた研究によって、伊豆半島東部の地下15キロメートルほどの広い範囲にマグマがたまっていると推測されている。
 こうしたデータから、玄武岩領域と安山岩/流紋岩領域がつくるドーナツ状構造は、おそらく地下にあるマグマの分布そのものを示すと考えられている。内側の領域にだけ安山岩質・流紋岩質マグマがあるのは、伊豆東部火山群の誕生以来少しずつ上ってきた玄武岩質マグマが、熱量の豊富な内側ほど大量の地殻を溶かしたためであろう。ただし、ひとつひとつのマグマだまりは小さく、合体が進んでいないため、2700年前の岩ノ山-伊雄山(いおやま)火山列の噴火で見られたように、ひとつの噴火割れ目上で異なる種類のマグマが噴出することがある。
 以上のことは防災上もきわめて重要である。粘りけの強いマグマは爆発的な噴火をすることが多いため、安山岩/流紋岩領域で起きる噴火は、玄武岩領域で起きる噴火よりも一層の警戒が必要である。1989年7月の手石海丘(ていしかいきゅう)の噴火は幸いなことに玄武岩領域で起きたが、マグマ活動の場所が今後も伊東沖にとどまる保証はない。地下のマグマ活動を示す群発地震がどこで起きるかに注目し、その場所が安山岩/流紋岩領域に足を踏み入れないかどうかに常に注意を払っていくべきである。

伊豆東部火山群の各火山が噴出したマグマの種類。

 

伊豆東部火山群の地下構造。

 

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