伊豆新聞連載記事(2009年7月5日)
火山学者 小山真人
伊豆東部火山群では、その誕生以来、比較的粘りけの弱いマグマ(玄武岩(げんぶがん)質または安山岩(あんざんがん)質)ばかりが噴出していたが、カワゴ平(だいら)火山が噴火した3200年前以降になって初めて、粘りけの強い流紋岩(りゅうもんがん)質のマグマが噴出するようになったと前回述べた。このことは、横軸に噴火年代、縦軸にマグマの噴出量をとったグラフをつくると、さらに明確になる。図中の太い縦棒の長さが各噴火の大きさ(マグマの噴出量)を示し、棒の先端の記号がマグマの種類を示している。この図で、□印をつけた流紋岩質マグマの噴火が図の右端近く(最近3200年間)にしかなく、他は○印(玄武岩質マグマ)と△印(安山岩質マグマ)の噴火ばかりであることが一目瞭然である。
一方、噴火の大きさにも注目してみよう。10万年前より古い時期には一碧湖(いっぺきこ)火山列や巣雲山(すくもやま)火山列などの比較的大きな噴火が多かったが、10万年〜4万年前の期間は小さな噴火ばかりの穏やかな時代であったことが見てとれる。ところが、3万6000年前の鉢ノ山(はちのやま)の噴火以降は再び大きな噴火が起きるようになり、とくに最近4000年間は大室山(5億1000万トン)、カワゴ平(7億6000万トン)、岩ノ山-伊雄山火山列(合計で3億6000万トン)と、横綱クラスの噴火が立て続いて起きた。
こうした傾向は、伊豆東部火山群の誕生以来のマグマ噴出量を積算して示したグラフ(階段図)を書くと、一層よくわかる。階段図では、噴火が起きていない期間はグラフが水平となり、噴火が起きると階段のステップができる。各ステップの高さは、各噴火の噴出量である。平均的なマグマの噴出率が低い時期は階段の傾きが緩やかであり、噴出率が高い時期には階段が急になる。10万年前までの階段は急であり、10万〜4万年の間の階段は緩やかである。しかし、4万年前以降の階段は再び急になり、4000年前からは登り切れないくらいの急傾斜となっている。このことは、現在の伊豆東部火山群は大きな噴火が立て続けて起きやすい時期にあり、今後も横綱クラスの噴火がいつ起きてもおかしくないことを意味している。
上図は、伊豆東部火山群の各火山の噴火年代とマグマ噴出量。下図は、伊豆東部火山群全体の積算マグマ噴出量の時間変化(階段図)。