伊豆新聞連載記事(2009年6月28日)

伊豆の大地の物語(96)

伊豆東部火山群の時代(56)噴火史のまとめ(上)

火山学者 小山真人

 前回で、伊豆東部火山群のうちの陸上にある各火山の紹介を終えた。このほか本連載の第32回などで説明したように、伊豆東部火山群に属する海底火山が東伊豆沖に多数分布するが、その噴火年代のほとんどは不明である。唯一の例外が1989年7月に伊東沖で噴火した手石海丘(ていしかいきゅう)である。20年前の伊東市民を恐怖におとしいれた手石海丘の噴火については後日詳しく述べるとして、ここでは伊豆東部火山群の陸上部分全体の歴史をふりかえることにしよう。
 まず、噴火した場所に注目する。15万年前から8万年前にかけては、遠笠山(とおがさやま)より北にある火山が次々と噴火した。伊豆の国市・伊豆市・伊東市の3市にまたがる高塚山 -巣雲山(すくもやま)火山列(13万2000年前)や、伊豆市の日向(ひなた)火山(12万9000年前)と船原火山(9万1000年前)、伊東市の一碧湖(いっぺきこ)火山列(10万3500年前)などが、この時代のものである。つまり、火山群の北半分がこの時期にできたと言える。
 続いて8万年前から2万年前にかけては、伊東市内での火山噴火が引き続く中で、伊豆市の南部(旧天城湯ヶ島町)や河津町内で多数の火山が噴火した点が注目される。河津町の鉢ノ山(はちのやま)(3万6000年前)、伊東市の鉢ヶ窪(はちがくぼ)(2万3000年前)火山などが、この時代のものである。つまり、この時期に火山群の活動域が南に広がった。
 そして、2万年前から現在までは、火山群の中心部にあたる伊東市から東伊豆町を経て伊豆市南縁部にかけての噴火が活発であった。伊東市の小室山(1万5000年前)、大室山(4000年前)、岩ノ山-伊雄山(いおやま)火山列(2700年前)、伊豆市の鉢窪山(はちくぼやま)(1万7000年前)やカワゴ平(だいら)火山(3200年前)が、この時代のものである。
 次に、各火山が噴出したマグマの種類(岩石種)を見てみよう。15万年前から2万年前にかけては、比較的粘りけの弱い玄武岩(げんぶがん)と安山岩(あんざんがん)ばかりが噴出している。しかし、2万年前以降(実質的にはカワゴ平火山が噴火した3200年前以降)になって初めて、粘りけの強い流紋岩(りゅうもんがん)質のマグマが噴出するようになった。

伊豆東部火山群の各火山の噴火位置、噴出したマグマの量(噴出量)、噴出したマグマの種類(岩石種)のまとめ。なお、デイサイトは便宜上、流紋岩の中に含めた。

 

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