伊豆新聞連載記事(2009年6月14日)

伊豆の大地の物語(94)

伊豆東部火山群の時代(54)矢筈山と孔ノ山

火山学者 小山真人

  前回述べた岩ノ山(いわのやま)の近くには、同時期に噴火したとみられるいくつかの火山がある。それらを紹介していこう。
 大室山の山頂から西方を望んだ人は、ごつごつしたドーム状の山が天城山の中腹にせり出していることに気づく。伊東市民には「げんこつ山」の名称でも知られる矢筈山(やはずやま)(標高816メートル)である。矢筈山は、粘りけの強い溶岩が火口から盛り上がってできた溶岩ドームである。よく見ると、矢筈山の北西隣りにも似た形をした低い山がある。これも溶岩ドームであり、孔ノ山(あなのやま)(標高660メートル)と呼ばれている。
 溶岩ドームは、1990年から始まった長崎県の雲仙(うんぜん)普賢岳(ふげんだけ)の噴火で有名になった言葉である。この噴火でできた溶岩ドームが、現在の平成新山である。他の例としては、北海道の有珠山(うすざん)の噴火でできた昭和新山が昔から有名である。また、海外では、ミネラルウォーター「ボルヴィック」のラベルに描かれている「ピュイ・ド・ドーム」(フランス中部)がその代表と言ってよいだろう。溶岩ドームは、英語ではラバ・ドームと言い(ラバは溶岩の意味)、かつては溶岩円頂丘(えんちょうちゅう)と訳されたが、普賢岳の噴火の際に報道各社が「溶岩ドーム」という言葉を使用し始めたため、学者の間でもそれが定着してしまった。
 伊豆東部火山群の中で、溶岩ドームは珍しい存在である。前回紹介した岩ノ山と今回の矢筈山・孔ノ山のほかに、第80回で紹介した台ノ山(だいのやま)、第91回で紹介したカワゴ平(火口周辺に一部のみ残る)の合計5例(本連載の第83回で紹介したような、溶岩の流出口に出現する特殊例を含めても7例)しかない。これは、伊豆東部火山群で噴出する溶岩の大部分が粘りけの弱いものであり、溶岩ドームができにくいためである。しかし、噴火年代不明の台ノ山を除く、残りのすべての溶岩ドームは3200年前以降に噴火した新しいものである。このことは、伊豆東部火山群が、徐々にその性格を変えつつあることを意味している。

伊東市池付近から見た矢筈山(やはずやま)(左)と孔ノ山(あなのやま)(右)。

 

フランス中部にある溶岩ドーム「ピュイ・ド・ドーム」。


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