伊豆新聞連載記事(2009年6月7日)

伊豆の大地の物語(93)

伊豆東部火山群の時代(53)岩ノ山

火山学者 小山真人

 大室山の周辺では、大室山が噴出した火山灰と地表との間に、褐色の岩片(がんぺん)ばかりからなる地層が1枚はさまっている。よく見ると、この岩片は気泡の少ないスコリア(暗色の軽石)であり、カワゴ平火山が噴出した軽石の層よりも上に位置している。つまり、カワゴ平火山が噴火した3200年前よりも後の時代に、近くで別の火山が噴火したのである。
 褐色岩片の地層の分布範囲は東西に細長く、西に行くほど厚くなっていき、鹿路庭(ろくろば)峠の北西1500メートルほどの場所にある岩ノ山(いわのやま)(標高602メートル)付近で最大となる。岩ノ山は流紋岩(りゅうもんがん)の溶岩ドームであるが、褐色岩片は安山岩質であって岩質が異なるため、かつて両者は別々の火山の噴出物と考えられていた。
 しかし、岩ノ山の南西のふもとにある林道沿いの崖に、岩ノ山から噴出したとみられる厚い爆発角(かく)れき岩が発見された。爆発角れき岩とは、マグマと水が触れ合って生じた爆発的な噴火によって火口周辺に降りつもった大岩や岩片からなる地層のことである。驚くべきことに、発見された爆発角れき岩の地層は、その下半分は黒っぽい安山岩の岩塊や岩片からなるが、上半分は灰白色をした流紋岩質の岩塊や岩片を多く含む。つまり、噴火の途中でマグマの化学的性質が変化したのである。
 以上のことから、岩ノ山火山の噴火は次のように推移したと考えられている。最初の噴火は、安山岩質マグマと地下水とが触れ合うことによる爆発的な噴火によって始まり、その際に火口上空に立ち上った噴煙が西風に流され、噴煙に含まれていた岩片が大室山周辺に降りつもった。これが最初に述べた褐色岩片の地層である。その後、マグマの性質が変化した後に、地下水が涸れたことによって噴火自体が穏やかなものとなり、粘りけの多い流紋岩質の溶岩が火口に盛り上がり、火口にフタをする形で溶岩ドームをつくって噴火が終了した。
 岩ノ山火山が噴火した年代は、火口近くの爆発角れき岩の中から見つかった樹木の炭素年代や、カワゴ平火山の噴火年代との関係を参考にして、おおよそ2700年前と推定されている。

岩ノ山火山から噴出した爆発角れき岩。


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