伊豆新聞連載記事(2009年5月17日)
火山学者 小山真人
伊豆の広い範囲に分布するカワゴ平(だいら)火山の軽石や火山灰は、いつも地表から数十センチメートル以内の浅い地下に見つかる。古い地層ほど地下深く埋もれてゆくので、地表近くにあるということは、噴火年代が新しいことを意味している。大室山の火山灰が降りつもった範囲内では、カワゴ平火山の軽石・火山灰は、いつも地表と大室山の火山灰の間に見つかる。つまり、カワゴ平火山の噴火年代は、大室山が噴火した4000年前より新しい。さらに、カワゴ平火山の火砕流に埋もれた神代杉の炭素年代がいくつか測定されており、いずれも2800年前から3300年前の間の値を示す。
ここで炭素年代とは何かを説明しておこう。大気中の二酸化炭素中に含まれる炭素の中には、地球外から降り注ぐ宇宙線によって生成された放射性のものがわずかに含まれている。この放射性炭素は、光合成によって植物の中に取り込まれ、植物が死んだ後は外界との炭素の行き来がなくなるため、放射性壊変(かいへん)によって徐々に失われていく。放射線壊変とは、ある種の元素が放射線を出しながら、少しずつ別の元素に変化していくことである。壊変の速度は一定なので、地層中の植物片に含まれる放射性炭素の量を測定することによって、その植物が生きていた頃の年代を知ることが可能である。ただし、大気中の放射性炭素の量自体が時代とともに変化するため、炭素年代から実際の暦年代への補正が必要である。こうした補正の問題も考慮しつつ、他の火山灰との関係も参考にして、カワゴ平火山の噴火年代は、およそ3200年前であったと見積もられている。
前回述べたように、カワゴ平火山の火山灰は伊豆半島以外の地域でも見つかるため、そうした地域での3200年前の時間面を意味する良い基準として利用されている。たとえば、富士山の火山灰との関係から富士山の噴火史を調査する助けとなったり、あるいは富士川河口断層帯などの活断層に切られているかどうかを調べることによって、活断層の動いた年代を知るなどの成果が得られている。たとえば、富士山では、カワゴ平火山灰のすぐ上に3枚のスコリア(暗色の軽石)層が次々と折り重なることから、カワゴ平の噴火から100年ほどの間に、富士山でも3回の大噴火が次々と発生したことがわかった。
富士山の噴火で降りつもったスコリア層の間にはさまれるカワゴ平火山灰(写真中央の白色の層)。御殿場市太郎坊(たろうぼう)。