伊豆新聞連載記事(2009年5月3日)

伊豆の大地の物語(88)

伊豆東部火山群の時代(48)カワゴ平(1)

火山学者 小山真人

 シャクナゲの森で名高い天城連山の稜(りょう)線をたどるハイキングコースは、東の天城高原ゴルフ場に始まり、万二郎(ばんじろう)岳(標高1299メートル)、伊豆半島の最高峰である万三郎(ばんざぶろう)岳(標高1405メートル)を経て、さらに西の八丁池(標高1170メートル)に至る山道である。その途中、万三郎岳の西1500メートルほどの稜線のすぐ北側に、カワゴ平(だいら)(皮子平)と呼ばれる東西1キロメートルほどの凹地がある。凹地は北に向かって開いたU字形をしており、底の標高は1090メートルほどである。この凹地は、爆発的な噴火によってできた巨大な火口であり、地名にちなんでカワゴ平火山と呼ばれている。
 この火口から北に向かって、分厚い溶岩が流れ出していることが地形からはっきりわかる。溶岩流の厚さは50メートルほどもあり、天城山の北斜面を4キロメートル流れて伊豆市筏場(いかだば)の南に達している。溶岩流の末端や左右の端が切り立った崖になっており、粘りけの多い流れであったことがわかる。
 この溶岩流をつくっている岩石は、伊豆東部火山群の中では珍しい流紋岩(りゅうもんがん)という種類の火山岩であり、みかけは灰白色のごつごつした岩であるが、火山ガスの抜けた気泡をたくさん含むために、まるで軽石のように軽い。その軽さや耐熱性が注目され、天城抗火石(こうかせき)と呼ばれて建材などの用途のために古くから採掘されてきた。
 この溶岩流の北端から筏場付近にかけて、さらに異様なものが分布している。分厚い火砕流(かさいりゅう)である。火砕流は、1990年から始まった長崎県の雲仙(うんぜん)普賢(ふげん)岳の噴火によって有名になった現象であり、高温の火山ガスと火山灰などが一体となって山の斜面を高速で流れ、停止後はガスが抜けて独特な見かけをした地層を残す。筏場付近にある火砕流は、ピンク色がかった灰白色の細かな火山灰の中に白い軽石が転々と散らばる地層であり、厚さが20メートルにも達する。この地層はもろくて浸食されやすいために、あちこちに切り立った谷が刻まれている。1958年狩野川台風の際には大量の土砂が流出して、大きな被害を招いた。

 

カワゴ平火山の溶岩流の断面。

 

カワゴ平火山の火砕流がつくった台地を刻む深い谷。


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