伊豆新聞連載記事(2009年4月26日)

伊豆の大地の物語(87)

伊豆東部火山群の時代(47)大室山(6)

火山学者 小山真人

 大室山の噴火は、さまざまな自然の造形をつくり出した。その代表的な例を2つ挙げよう。大室山の北西のふもとにある公園「さくらの里」の芝生の中に、転覆した船の胴体を半分に切ったような変な形の岩がつき出ている。船底は溶岩の一枚岩でできており、中身にはガサガサした感じの赤黒い軽石(スコリア)がつまっている。これはスコリアラフトと呼ばれるものであり、かつては大室山の山体の一部であった。溶岩が大室山の西のふもとから流れ始めた時、上に乗っていた山体の一部を崩して流れたものである。スコリアは気泡が多くて軽いので溶岩流の中に沈まずに、そのまま上に乗って流れ、溶岩流の表面をころがるうちにその周囲に溶岩がまとわりついたのである。ちなみに「ラフト」というのは、英語で筏(いかだ)の意味である。こうしたスコリアラフトは、さくらの里だけでなく、伊豆高原内の工事現場の崖などでも見つかることがある。
 大室山の溶岩流が流れこんでできた城ヶ崎海岸の中ほどに「かんのん浜」という場所があり、「ポットホール」と呼ばれる造形を観察できる。一枚の固い岩盤の上に、何らかの原因で大岩が置かれたとしよう。そこが川の中だったり、波打ちぎわだったりした場合に、どんなことが起きるだろうか? 大岩は、川の流れや打ち寄せる波によってひっきりなしに動き、その下の岩盤を徐々にうがって穴を開けていく。それとともに大岩自体も徐々にすり減っていき、最後には岩自体が消滅して、丸い穴の空いた岩盤だけが残される。こうしてできた丸い穴をポットホールと呼ぶ。ポットホール自体は、それほど珍しい存在ではない。しかし、かんのん浜にあるポットホールは、まだ大岩が穴をうがっていく途中の状態なのである。この大岩自体も元は溶岩流の一部であったが、角をすっかり落とされて完全な球形をしており、表面は磨かれて鏡のようになっている。こうしたポットホールは、きわめて珍しい。球形になるまでには、おそらく数百年の時間を必要としたであろう。今は伊東市の天然記念物に指定されているが、国指定に格上げされてもおかしくないものである。これら自然のつくった奇跡のような造形を、どうか末長く大事にしてほしい。

 

大室山の西のふもとにあるスコリアラフト。

 

城ヶ崎海岸の「かんのん浜」にあるポットホール。


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