伊豆新聞連載記事(2009年3月29日)

伊豆の大地の物語(83)

伊豆東部火山群の時代(43)大室山(2)

火山学者 小山真人

 大室山からは大量の溶岩が流出している。その量は大ざっぱに見積もって3億8000万トン、つまり4トン積みトラック約1億台分という途方もない量である。この溶岩が大室山の周辺にかつてあった地形の凹凸を埋め立て、なだらかな伊豆高原がつくられたのだ。
 ただし、よくよく見ると、伊豆高原のすべてが大室山の溶岩流におおわれているわけではない。本連載の第58〜59回と第80回で説明した払(はらい)、高室山(たかむろやま)、アラ山などの古い火山が、溶岩流に埋め残されている。また、伊豆ぐらんぱる公園の高台や、伊東市十足(とおたり)付近にあるいくつかの丘も、溶岩流に埋め残された部分である。国道135号線と城ヶ崎(じょうがさき)海岸の間にも、溶岩流におおわれていない小区画がいくつかある。溶岩流に埋め残されて孤立した高台や小区画のことを、ハワイ語を語源とした言葉で「キプカ」と呼ぶ。つまり、大室山の溶岩流にはキプカがたくさんある。このことは、大室山の溶岩流が総じて薄かったため、周囲の凹凸を完全には埋めきれなかったことを物語っている。
 これらの溶岩流は、大室山のどの部分から流出したのだろうか? 大室山の北東に隣接して岩室山(いわむろやま)(標高448メートル)がある。岩室山の直径は約500メートル、ふもとからの高さは70メートルほどである。その平らな山頂には伊豆シャボテン公園が建てられているが、山腹は切り立っており、全体としてドーム状をなしている。山頂や山腹には角ばった大岩がごろごろしている。こうした特徴は、岩室山が溶岩ドームであることを示すものである。溶岩ドームは、雲仙普賢岳(ふげんだけ)の平成新山などと同種の火山で、粘りけの多い溶岩が火口から盛り上がってできる。大室山の南隣りにも岩室山とよく似た山(標高310メートル)があり、森山と呼ばれている。岩室山より小さくて目立たないが、森山も溶岩ドームである。
 大室山の周囲にある溶岩をその上流へとたどると、その多くは岩室山と森山に行き着く。つまり、これらの溶岩流は大室山から直接流れ出たものではなく、そのふもとにできた流出口から流れ出したのである。そして、噴火の最後が近づいて溶岩の粘りけが増した時に、流出口にフタをするように盛り上がったのが岩室山と森山なのである。

 

東から見た大室山。大室山の右側にある丘が岩室山(いわむろやま)。


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