伊豆新聞連載記事(2009年3月22日)
火山学者 小山真人
伊豆高原の最高点にそびえる大室山(標高580メートル)は、言うまでもなく伊東市で一番のランドマークであり、伊東のシンボルと言ってもよい山である。
火山学の言葉で言うと、大室山は、伊豆東部火山群で最大のスコリア丘(きゅう)である。粘りけの少ないマグマが火口から噴水のように吹き上がると、たちまち冷え固まって暗い色をした軽石となる。これがスコリアであり、落下したスコリアが火口の周囲に降りつもってできた山がスコリア丘である。噴火の進行にしたがってスコリア丘が高く成長してくると、落下したスコリアは安定せずに、そのまま斜面をころがり落ちるようになる。火口の縁の内側にころがり落ちたものは再び火口の底に戻り、また吹き上がることをくり返す。縁の外側にころがり落ちたものは、スコリア丘の裾(すそ)を徐々に成長させていく。こうして、ついには底の直径が1000メートル、底からの高さが300メートルという、まるで巨大なプリンのような形の山体が作られたのである。
大室山の山頂には、直径250メートル、深さ40メートルほどのスリバチ状の火口が残されている。この火口内には、噴火の最終段階で溶岩がたまり、溶岩湖がつくられた。火口の内壁の北東にへばりつくように、浅間神社と呼ばれる小さな神社が建てられている。この神社の裏手の崖に暗灰色の一枚岩が見られるが、これがかつて火口を満たしていた溶岩湖の一部である。溶岩湖を満たした溶岩の大部分は、やがて地下に戻ったり周囲にもれ出したりして消失したが、火口の内壁にへばりついた部分だけが残されたのである。岩の表面をよく観察すると、噴火時に溶岩湖の中に落下し、周囲と同化しかけた火山弾を見つけることができる。
一方、注意深い人は、大室山の南斜面の標高450メートル付近にも、直径50メートルほどの小さな火口を見つけることができるだろう。火口の形が明瞭であることから、大室山がその成長をほぼ終えてからできたものと考えられる。おそらく噴火の最終局面に至って、地下の火山ガスの圧力が山頂火口に抜けにくい状態が生まれ、別の場所に抜け道をさぐった結果、少しだけ側面にもれて生じた火口なのだろう。
北西側から見た大室山。プリン状の形が美しい。
大室山の山頂火口の内部。中央やや右の建物が浅間神社。遠景の山は小室山。