伊豆新聞連載記事(2009年3月15日)
火山学者 小山真人
伊豆市(旧中伊豆町)を流れる大見川の支流の菅引(すげひき)川に沿った林道を南へ進むと、遠笠山の北西1500メートル付近の道ぞいの崖に溶岩流の断面が見られる。この溶岩の岩質や化学組成は伊豆東部火山群のものである。ところが、地形図で見る限りは、付近に火口や火山体とおぼしき地形が見当たらず、深い森におおわれた天城山の険しい山肌が広がるばかりである。おそらく噴火が穏やかで小規模だったために、溶岩流を少し流しただけで、目立った火山地形をつくらなかったのだろう。しかし、溶岩を流した火口がどこかにあることは間違いないので、菅引火山という名前がつけられた。
これと似たケースとして、東伊豆町を流れる白田(しらた)川の上流にあたる堰口(せきぐち)川ぞいの林道に、やはり伊豆東部火山群の溶岩流が見られるが、付近に目立った火山地形が見当たらない。場所としては、八丁池の南東3キロメートル付近の天城山中である。この溶岩流を流したはずの火山は、堰口川上流火山という、やや複雑な名前で呼ばれている。
これら2つの火山は、従来の地形図を見る限りでは、その存在を知ること自体が困難である。たまたま溶岩流をまたぐ林道がつくられたため、発見されたに過ぎない。天城山の林道の数は限られるため、未発見の小さな火山が他にも複数あるとみるのが自然である。最近、航空レーザー測量というハイテク技術が開発された。飛行機から真下にレーザー光線を発射し、木々の葉の透き間を通して地面から反射してきた光線を再びとらえ、森の下に隠れた地形を精度よく描き出す技術である。実際に、この方法を用いた富士山ろくの青木ヶ原樹海(じゅかい)の調査によって、多数の火口や溶岩流が発見され、富士山の噴火史の解明作業が飛躍的に進んだ。残念ながら、費用の問題もあって,まだ伊豆東部火山群では航空レーザー測量が実施されていない。精度の高い噴火予測をするためには、ぜひとも実施したい調査手法である。
航空レーザー測量によって富士山北西部の青木ヶ原樹海の下から発見された火口列の立体地形図(国土交通省富士砂防事務所作成)。図の東西辺が約500mに相当。