伊豆新聞連載記事(2007年10月21日)

伊豆の大地の物語(8)

湯ヶ島層群の時代(3)緑色の岩石

火山学者 小山真人

 伊豆半島で2番目に古い地層である湯ヶ島(ゆがしま)層群をつくる岩石は、地熱や温泉水の影響によって少なからぬ変質を受けたものが多い。そうした変質の結果、岩石中に緑色を帯びた変質鉱物ができるため、岩石全体も緑色を帯びる結果となる。もちろん場所によっては、かなり新鮮な部分もあるし、湯ヶ島層群より新しい白浜層群の地層でも相当な変質を受けている場合もあるので、変質の程度だけから湯ヶ島層群に属する岩石かどうかは判断できない。このため、かつてよく言われた「緑色に変質した岩石であれば湯ヶ島層群」という短絡的な判断は誤りである。
 そうしたことを割り引いて考える必要はあるが、概して湯ヶ島層群には緑色を帯びた岩石が多い。前の回で、湯ヶ島層群には乱泥流(らんでいりゅう)という海底の土砂の流れによってできた岩石が多いと説明したが、場所によっては溶岩流ばかりからなる部分もある。乱泥流や溶岩流は、地層の堆積のしかたによる分類であり、地層をつくる物質としては火山灰・火山れき・火山岩塊(がんかい)が主体を占めている。また、火山れきの中には、軽石やスコリア(黒色や黒褐色などの暗い色をした軽石)も含まれている。軽石やスコリアの実体は、気泡をたくさん含む火山ガラスである。こうした岩石が、地熱や温泉水による変質を受けて緑色を帯びているのである。おもしろいことに、地質学者たちは変質した岩石のことを「腐った岩石」と仲間うちで呼んでいる。
 火山ガラスなどはとくに変質を受けやすいため、元のものとは似ても似つかぬ緑色の変質鉱物の固まりに化けてしまうことがある。そうした場合、緑の斑点を多数ふくむ見かけをした岩石となる。このような岩石のうちで良質のものは「伊豆若草石」などと銘打たれ、古くから浴槽などの建材として使用されてきたが、最近は吸湿材、脱臭材などとしてみやげ物屋でも販売されている。

 

変質を受けた湯ヶ島層群の岩石。さまざまな色の岩片が含まれているが、全体としてかすかに緑色を帯びている。


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