伊豆新聞連載記事(2009年2月1日)

伊豆の大地の物語(75)

伊豆東部火山群の時代(35)小室山

火山学者 小山真人

 伊東温泉街の南東4キロメートルほどの高台にある小室山(こむろやま)(標高321メートル)は、伊東付近では大室山と並ぶ有名なランドマークであり、市内のいろいろな場所から眺めることができる。観光リフトで山頂に上り、そこからの景観を楽しめる点も大室山と同じである。
 小室山も、大室山と同じ伊豆東部火山群に属する火山であり、およそ1万5000年前の噴火によって溶岩のしぶき(スコリア)が火口のまわりに降りつもってできたスコリア丘(きゅう)である。ただし、「小室」の名の通り、プリン型をした山体のふもとの直径は700メートル、ふもとから山頂までの高さは150メートルほどで、どちらも大室山の約半分である。山頂には、注意しないと見落としてしまうほどの小さな火口のくぼみがあり、その底に神社が建てられている。
 しかし、小室山は、その山体の小ささからは想像できないほどの多量の溶岩を流出し、ふもとの地形を大きく変えているのだ。小室山が流した溶岩の量は、伊豆東部火山群で最大の5憶3000万トンであり、伊豆高原や城ヶ崎海岸をつくった大室山の溶岩より1憶5000万トンも多い。大室山の溶岩流は、広い面積をおおった割には厚さが薄いため、全体の量は小室山に及ばないのである。
 小室山のふもとからあふれ出した大量の溶岩流は、小室山の四方に、まるで花びらが開いたような形の分厚い溶岩台地を形づくっている。このうち東側に流れて相模湾を埋め立てた溶岩台地の平坦な地形は、今では川奈ゴルフ場として利用されている。さらに、この溶岩台地が北に張り出して川奈崎をつくったおかげで、川奈港の入り江ができた。
 また、小室山の北側・西側・南側にできた溶岩台地の上には、宅地や別荘地、小室山公園、サザンクロスゴルフ場が建設されている。これらの溶岩台地は、もとあった谷をせき止めたために、小室山の北西と南西に2つの湖をつくったとみられる。この湖は、その後の土砂流入によって埋められ、現在では伊東市街地の一部である水無田(みなしだ)と吉田の2つの盆地となっている。

 

北側の川奈(かわな)付近から見た小室山(こむろやま)

 

小室山とその周囲にある溶岩台地。矢印をつけた範囲はすべて溶岩台地、矢印の向きは溶岩が流れた方向を示す。


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