伊豆新聞連載記事(2009年1月25日)

伊豆の大地の物語(74)

伊豆東部火山群の時代(34)浄蓮の滝と鉢窪山

火山学者 小山真人

 伊豆最大の流域面積と長さをもつ狩野(かの)川は、伊豆市の湯ヶ島温泉より上流では名前の異なる2つの川となり、西側の流れを猫越(ねっこ)川、南側の流れを本谷(ほんたに)川と呼ぶ。国道414号線は、この本谷川ぞいを南にさかのぼり、天城峠に至っている。その途中、湯ヶ島温泉の2キロメートルほど上流にかかる有名な滝が「浄蓮(じょうれん)の滝」である。滝をつくる岩盤には見事な柱状節理が観察でき、この滝が溶岩流によって作られたことがわかる。
 この溶岩流は、滝の南東1キロメートルにある鉢窪山(はちくぼやま)(標高674メートル)が1万7000年前に噴火したさいに流出したものである。この溶岩流は、浄蓮の滝の周囲になだらかな台地をつくっており、台地上には滝観光のための駐車場や店並み,伊豆市茅野(かやの)の集落と農地などが立地している。地形図上で見ると、この台地は、本谷川とその東にある支流の岩尾(いわび)川の間を、北方の湯ヶ島温泉方面に向けて先細りの形に伸びている。この台地の形こそが、かつての谷を埋めて流れた溶岩流の地形そのものである。幸いなことに、この溶岩流は湯ヶ島温泉の1キロメートルほど手前で停止した。さらに噴出量が多ければ湯ヶ島温泉にまで達し、峡谷美が自慢の湯ヶ島温泉は、現在ほど趣のある景観を持てなかったかもしれない。
 鉢窪山は、粘りけの少ない溶岩のしぶき(スコリア)が火口のまわりに降りつもってできたスコリア丘(きゅう)である。伊豆高原の大室山と同じ種類の火山であり、底の直径800メートル、高さ300メートル弱のプリン形をしているが、険しい山あいにできたことが災いして、その美しい形を認識している人は少ない。
 鉢窪山の南東1200メートルほどの山中に丸山(まるやま)と呼ばれる丸い丘(標高938メートル)があるが、これもスコリア丘であり、鉢窪山と同時に噴火したと考えられている。伊豆東部火山群の他の火山列と同様に、鉢窪山と丸山も北西-南東方向の割れ目噴火によってできた一つの火山列なのである。

北西側から見た鉢窪山(はちくぼやま)。

 

鉢窪山の溶岩流が本谷川に流れこんでできた浄蓮(じょうれん)の滝。


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