伊豆新聞連載記事(2007年10月14日)

伊豆の大地の物語(7)

湯ヶ島層群の時代(2)乱泥流

火山学者 小山真人

 伊豆半島で2番目に古い地層である湯ヶ島(ゆがしま)層群のもっとも大きな特徴は、地層の縞(しま)の明瞭なものが多い点である。おそらく一般の人にとって、そもそも地層の縞が明瞭なのは当然のことかもしれないが、地質学的な意味での「地層」には、縞(層理(そうり)と呼ばれる)のないものも多数含まれる。地層の縞は、地層をつくる岩石の粒が細かい場合にできやすい。とくに砂サイズ以下の粒が集まってできた地層には、水の流れの作用などによって明瞭な縞々がつくられることが多い。
 湯ヶ島層群には、砂サイズ以下の細かな粒でできた地層が多いため、明瞭な縞が見られるのである。これらの粒の多くは、あちこちの海底火山から噴出した火山灰である。これらの火山灰は、いったん火山付近の海底に降り積もるが、その後の噴火や地震が引き金となって崩壊し、一団となって海底斜面上をさらなる深みへと流れ下ることがある。このような現象を「乱泥流(らんでいりゅう)」と呼ぶ。有名な映画「日本沈没」(1973年)の冒頭には、主人公の乗る深海潜水艇が大きな乱泥流に遭遇するシーンがあるが、まさにあのような現象が海底火山の近くでたびたび発生しているのである。
 海底火山のわきに大きめの凹地があれば、そこに向かって何度も乱泥流が流れ下ることになる。乱泥流によってたまった土砂の地層を「タービダイト」と呼び、その土砂の多くが火山灰の場合は「火山灰タービダイト」と呼ばれる。乱泥流が流れる際に、水の作用によって重くて大きい粒は下に沈み、軽くて小さい粒が上に浮き上がってくる。このため1枚のタービダイトをよく観察すると、下から上に向かって粒の大きさが細かくなっていく様子を見てとることができる。湯ヶ島層群の中にある縞の明瞭な地層の多くは火山灰タービダイトであり、たとえば伊豆市加殿(かどの)や松崎町桜田(さくらた)などの崖や川沿いでよく観察できる。

 

湯ヶ島層群の火山灰タービダイト(伊豆市日向(ひなた)の狩野川ぞいの崖)。地層にたくさんの縞々(層理)が見られる。


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