伊豆新聞連載記事(2008年12月14日)

伊豆の大地の物語(68)

伊豆東部火山群の時代(28)地久保

火山学者 小山真人

 「大室山は再噴火しますか?」という質問を、地元の方々によく尋ねられる。これは大室山に限らず、小室山であっても一碧湖(いっぺきこ)であっても、伊豆東部火山群に属する火山なら、答は「ノー」である。その理由は、伊豆東部火山群は単成(たんせい)火山の集まりであり(本連載第41回参照)、単成火山というのは一度しか噴火しない火山だからである。
 しかし、伊豆東部火山群全体としての噴火は何度も起きてきた。そのつど場所を変えて噴火し、あちこちに小さな火山を作ってきたのである。よって、大室山そのものが噴火することはないが、たまたま別の火山が大室山と同じ位置に火口を開く可能性はゼロではない。ただし、それはあくまで別の火山ができるということなのである。過去には一つだけそうした例があったことを紹介しよう。
 本連載の第53回で紹介した梅木平(うめのきだいら)火山は、一碧湖の南東で10万3500年前に噴火してできた火山であるが、かつては「地久保外輪山(ちくぼがいりんざん)」という名で呼ばれたこともある。それは、直径1キロメートル近い大きな火口の中に、後の時代すなわち3万2000年前に別の単成火山である地久保(ちくぼ)火山ができたからである。こちらも、かつて「地久保中央火口丘(かこうきゅう)」という名で呼ばれていた。しかし、両者はともに単成火山であり、たまたま場所が重なったに過ぎないため、独立した名称で呼ばれるようになったのである。
 地久保火山は、小室山の南南西2キロメートルにある直径500メートルのスコリア丘(きゅう)であり、ふもとからの高さが50メートルほどなので、地形的にほとんど目立たない。国道135号線は、この地久保火山と梅木平火山の間の谷間を通過している。地久保火山の北側がえぐれたような地形をしているのは、北に向かって流れ出した溶岩流によって、山体の一部がくずされたからである。この溶岩流は、700メートルほど流れて伊東市吉田の街並みの南端付近にまで達している。地久保火山から噴出した火山灰は、大室山周辺から伊東温泉街までの広い範囲に分布しており、他の火山の噴火年代を決める良い手がかりとなっている。

伊豆東部火山群の分布図(主として北東部)。ゴシック体は火山名、明朝体は地名。細い実線は主要な道路。


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