伊豆新聞連載記事(2008年11月23日)

伊豆の大地の物語(65)

伊豆東部火山群の時代(25)沼ノ川火山列

火山学者 小山真人

 河津町にある有名な河津七滝(ななだる)は、およそ2万5000年前に伊豆東部火山群の登り尾(のぼりお)南火山が噴火して流した溶岩流にかかる滝である。滝をつくる岩盤には、溶岩が冷え固まった時にできる美しい柱状節理(ちゅうじょうせつり)が観察できる。登り尾南火山についてはいずれ詳しく述べるが、今回はこの少し西側にある別の火山列について紹介したい。
 河津七滝のうちの下から2番目の出合滝(であいだる)は、2つの川の合流点にかかっている。東側の川が河津川であり、その上流5滝のすべては河津川ぞいにある。一方、西側の川は荻ノ入(おぎのいり)川と呼ばれており、合流点付近以外の川底に溶岩流は見られない。
 この荻ノ入川を1.5キロメートルさかのぼると、沼ノ川の集落に出る手前の北東岸が高い崖となっており、そこに見事な溶岩流の断面が観察できる。この溶岩流は、その700メートルほど南西にある標高460メートルの丸い丘(沼ノ川A火山)から流れ出したことが、地形や噴出物の調査からわかった。同様にして、沼の川集落の北西の山中にも沼ノ川B・C・Dの3つの火山が発見された。いずれの火山も、火口のまわりにマグマのしぶきを降りつもらせた小さな丘(スコリア丘(きゅう))であり、そこから流れ出した溶岩流が荻ノ入川に達している。
 以上合計4つの火山は、伊豆東部火山群の他の火山によく見られるように、北西-南東に並ぶ火山列をなしており、沼ノ川火山列と総称される。沼ノ川火山列の噴火年代は、およそ3万6000年前に噴火した鉢ノ山(はちのやま)(次回で紹介)の火山灰との関係から、約5万3000年前とみられる。
 沼ノ川火山列が荻ノ入川に溶岩流を流したことで、4キロメートル近くにわたって川ぞいに多くの滝ができたと想像される。河津七滝のかかる範囲が全長2キロメートルに過ぎないことを考えれば、さぞかし壮大な眺めであったろう。もし残っていれば7滝どころの話ではなく、河津十○滝あるいは二十○滝などと呼ばれて今以上の観光地になっていたかもしれない。しかし、残念なことに、できた年代が河津七滝より2倍以上古いため、山から少しずつ流れ出た土砂によって、その大部分はすでに埋まってしまったのである。

伊豆東部火山群の分布図(主として南西部)。ゴシック体は火山名、明朝体は地名。細い実線は国道。


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