伊豆新聞連載記事(2008年11月9日)
火山学者 小山真人
伊豆東部火山群は単成(たんせい)火山の集まりであることを、本連載の第41回で述べた。単成火山は、一度だけ噴火して小型の山体をつくった後に、同じ火口からの噴火をやめてしまう火山である。だから、単成火山の周囲には、噴火1回分に相当する噴出物が積もっている。逆に、ある単成火山の噴火の性質や年代を調べたい場合には、その火口の近くに行って,火口から出たとみられる噴出物を調べればよい。
ただし、この作業は簡単ではない。噴火当時は地表に見えていた噴出物も、やがて土に埋もれ、草木が生い茂ってしまう。また、噴出物の上に建物や町ができてしまうと、土木工事をしない限りは二度と噴出物を見ることはできない。よって、噴出物の断面が観察できるのは、たまたま工事によって人工的に崖(がけ)がつくられた時や、川や海岸などに見られる自然の崖などに限られる。そうした崖の存在によって運良く噴火の年代や性質がわかった例を紹介しよう。
伊東温泉街の2キロメートルほど南東の台地上に、伊豆東部火山群の一員である城星(じょうぼし)火山と呼ばれる単成火山がある。この火山は、国道135号線の殿山(とのやま)交差点の南西側にある小さな丘である。周囲からの高さは30メートルほどで、上から見ると北西に開いたブーメランの形をしている。ブーメランの円弧の内側はかつての火口であり、その地形を利用して現在は市民運動場や伊東市立南小学校が建てられている。この火口から1枚の溶岩流が北西に流れ出しており、現在の南中学校あたりを通過した後、伊東温泉競輪場の南東にまで達している。以上のことは地形と溶岩の分布からわかるが、城星火山がいつ頃どのような性質の噴火をしたかは、火口付近の噴出物を見ない限り決め手がない。
かつて殿山交差点の北側にあった工事現場の崖で、城星火山の噴出物断面を観察することができた。崖には、城星火山から噴出したとみられる爆発角(かく)れき岩や火山灰が厚く積もっており、その50センチメートル上に約6万年前の箱根山の噴火によって積もったTPfl(ティー・ピー・エフ・エル)火山灰(本連載の第50回参照)を見つけることができた。こうした事実から、城星火山が、およそ6万5000年前にできたタフリング(爆発的噴火によってできた大きな火口と、それを取りまくリング状の山体をもつ火山)であるとわかった。
城星(じょうぼし)火山の近くの崖(がけ)に見えていた噴出物の地層。下半分のしましまの部分が城星火山の噴出物。