伊豆新聞連載記事(2008年10月26日)

伊豆の大地の物語(61)

伊豆東部火山群の時代(21)大池・小池

火山学者 小山真人

 東伊豆町稲取(いなとり)の北西5キロメートルに、天城(あまぎ)連峰のひとつである三筋山(みすじやま)(標高821メートル)がある。三筋山から稲取付近にかけて広がるなだらかな丘陵地は、かつて天城火山(本連載の第35回参照)がつくった火山斜面が浸食され残ったものである。その丘陵地の中、三筋山の南方2キロメートルの河津町見高(みだか)付近に注目すべき地形がある。
 それは北西-南東方向に並ぶ大小2つの凹地である。南東側の凹地は大池と呼ばれ、長径300メートルほどの楕円(だえん)形で、深さは20メートルほどである。凹地の中は草地となっており、パラグライダーの練習場として使われているから、凹地の存在を知る地元の人は多いだろう。
 一方、大池の北西600メートル付近にあるもう片方の凹地は森におおわれているため、その存在自体を知る人は少ない。この円形の凹地は小池と呼ばれ、直径は200メートルほどであるが、深さは大池よりもずっと深く50メートルもある。
 大池と小池は、どちらも伊豆東部火山群に属する火山であり、6万6000年ほど前に噴火してできた。火山と言っても、かつての火口である凹地以外に目立った地形はない。このような特徴をもつ火山がマールと呼ばれることを、本連載第50回の一碧湖(いっぺきこ)のところで説明した。一碧湖マールには噴火後に水がたまって湖となったが、大池・小池マール付近は、湖となるには水はけが良すぎたようである。ただ、「池」という名前から考えると、かつては水がたまっていた時期があったのかもしれない。
 大池付近の林道の崖では、小池マール起源とみられる火山れきの地層が、大池マール起源の爆発角れき岩の地層に直接おおわれているのを観察できる。このことから、大池・小池マールがほぼ同時に噴火してできたことがわかる。どうやら、この両火山を噴火させたマグマは、北西-南東方向の割れ目をつくって地上に達し、その割れ目上に2つのマールを同時に誕生させたらしい。

林道の崖で見られる大池・小池マールの噴出物。下の細かな地層が、小池マールの噴火で降りつもった火山れき。上の粗い地層が、大池マールの噴出した爆発角れき岩。

 


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