伊豆新聞連載記事(2007年10月7日)

伊豆の大地の物語(6)

湯ヶ島層群の時代(1)谷すじの地層

火山学者 小山真人

 伊豆半島のほぼ中央、狩野(かの)川上流の谷すじにある名湯、川端康成ゆかりの地としても知られる湯ヶ島(ゆがしま)温泉。ここは、伊豆市に合併される前の天城湯ヶ島町の中心地でもあった。この湯ヶ島の名を冠した地層として知られるのが、「湯ヶ島層群」である。その年代はおよそ1500万年〜1000万年前。前回まで説明した仁科(にしな)層群(2000万年〜1600万年前)に次いで、伊豆半島で2番目に古い地層である。
 通例と国際規約によって、地層の名前には、その地層が典型的に分布する地域(模式地(もしきち))の名が付けられることになっている。厳密には「層群」は複数の「地層」をたばねた総称であるが、やはり地名を冠するのが普通である。湯ヶ島層群の分布が広く伊豆半島全体にわたっているため、もっとも代表的な部分が観察できる湯ヶ島付近が選ばれ、その名前が冠されたのである。
 湯ヶ島層群の分布図からわかるように、湯ヶ島層群は、おもに伊豆半島の大きな川の谷すじに沿って分布し、標高の高い尾根や山頂付近には分布しない。これは、湯ヶ島層群の上にのる新しい地層(白浜層群と熱海層群)が、標高の高い山地部分を占めているからである。
 湯ヶ島層群と同じように谷あいの部分に多く分布するのが、伊豆半島に数多くある温泉である。これらの温泉のほとんどは、いったん地下深くしみこんだ雨水や海水が、地熱の高い部分で暖められて再び地表にわき出したものである。したがって、わざわざ標高の高い場所まで上ってからわき出すよりは、谷あいや海岸近くでわき出る例が多い。もちろん例外はあるが、湯ヶ島層群から温泉がわき出すことが多いと言われるのは、このためである。
 温泉水からは、さまざまな鉱物が沈殿する。伊豆半島に数多くあり、かつては盛んに採掘されていた金鉱床も、ひらたく言えば岩石の割れ目に入った温泉水から金を含む鉱物が沈殿したものである。このため、湯ヶ島層群は、金鉱床が多く潜む地層としても有名である。

 

湯ヶ島層群の分布する範囲(灰色で塗られたところ)。


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