伊豆新聞連載記事(2008年10月12日)
火山学者 小山真人
およそ4000年前の大室山の噴火によって流出した大量の溶岩流は、もとあった地形の凹凸をならし、なだらかな伊豆高原を誕生させた。しかし、伊豆高原の中にも、この溶岩流におおわれていない部分がいくつかある。こうした部分は、地形的に高かったために溶岩流が避けて通った場所であり、その多くは大室山よりも古い火山の一部である。
それらは、本連載の第53〜54回で述べた梅木平(うめのきだいら)・門野(かどの)・荻(おぎ)の3火山、そして前回述べた払(はらい)火山などである。高室山(たかむろやま)も、そうした古い火山のひとつである。
高室山は、大室山の北東2キロメートルにある丘(標高310メートル)で、国道135号線をはさんで梅木平火山のすぐ西隣にある。周囲の高原から60メートルほどしか盛り上がっていないため、山として認識していない人も多いだろう。上から見ると、丸みをおびた三角形をしており、長辺の長さは700メートルほどである。
丸みをおびた三角形は火山の形として似つかわしくないが、山頂の崖に火山弾をふくむ爆発角れき岩が見られることから、梅木平火山などと同種の火山(地下水とマグマが触れあって爆発的噴火を起こしてできたタフリング)と確認できる。おそらく浸食が進んだうえに、山体の一部が大室山の溶岩流に埋もれたため、元の形が失われたのだろう。
高室山の周囲には、高室山から噴出したとみられる火山灰を見つけることができる。この火山灰の直下から九州起源の鬼界(きかい)葛原(とづらはら)火山灰(9万5000年前、本連載の第55〜57回参照)が見つかったことから、高室山の噴火年代をおよそ9万4000年前と推定できる。
ところで、ここで言う高室山は古くは「富戸(ふと)高室」と呼ばれた山であり、もうひとつ別の「十足(とおたり)高室」と呼ばれた高室山がある。十足高室は、大室山の北北西1キロメートルの場所にある標高417メートルの丘である。大室山の溶岩流は、この丘を乗り越えられなかったため、丘の両側に分かれて流れた。十足高室が伊豆東部火山群の一員である証拠は見つかっておらず、ずっと古い時代の火山の断片と考えられている。
伊東温泉街の南西の高台から見た大室山と高室山(たかむろやま)。大室山の隣の岩室山(いわむろやま)は、伊豆シャボテン公園のある丘で、大室山の溶岩流が流れ出した場所のひとつである。