伊豆新聞連載記事(2008年9月14日)

伊豆の大地の物語(55)

伊豆東部火山群の時代(15)九州から来た火山灰(上)

火山学者 小山真人

 本連載の第50回で、箱根山の噴火で放出された軽石や火山灰が伊豆でも多数見つかったことを述べた。しかし驚くなかれ、箱根どころではない、もっと遠くの火山から飛んできた軽石や火山灰が、少量ながら伊豆で発見されているのである。
 まず、長野県・岐阜県境にある御岳山(おんたけさん)(標高3067メートル)の9万9000年前の大噴火で降りつもった御岳第1軽石を、伊豆の国市の浮橋(うきはし)付近の崖で見つけることができた。同じ崖には箱根から飛んできたDa(ディー・エイ)-4軽石層があり、その2センチメートル上に斑点状に入っていた小さな軽石を分析した結果、御岳第1軽石と確認できたのである。
 さらに、この軽石の25センチメートル上に、黄白色をした細かな火山灰が点々と入っていることに気づいた。明るい色をした細粒(さいりゅう)の火山灰という特徴は、遠方の火山から飛んできたことを示すものである。明るい色は、伊豆東部火山群の火山灰としては珍しい色であり、さらに火山灰の粒は火山から遠く離れるほど細かくなるから、細かさの程度で火口からのおおよその距離がわかる。
 御岳よりも遠方にあり、日本の広い範囲に火山灰をまき散らす爆発的な噴火をした火山は、鳥取県の大山(だいせん)、島根県の三瓶山(さんべさん)、そして九州とその近海にある火山などに限られている。こうした火山灰は、その特徴・分布や噴火年代がよく調べられ、詳しいカタログが作成されている。逆に、これらの火山灰が見つかれば、その地域の地層の年代を決める手がかりとなる。
 伊豆の国市の崖から見つかった黄白色の細粒火山灰の特徴をカタログとつき合わせたところ、鹿児島県の南沖にある海底火山の「鬼界(きかい)カルデラ」が9万5000年前に噴出した鬼界葛原(とづらはら)火山灰と判明した。
 鬼界カルデラの名前の由来は、カルデラの縁にある火山島「薩摩(さつま)硫黄島」の古名が鬼界ヶ島であることに由来する。鬼界ヶ島は、平家物語の登場人物のひとりである俊寛(しゅんかん)が、平氏打倒の陰謀の罪を問われて流された島としても有名である。なお、鬼界葛原火山灰は、伊東市荻(おぎ)付近の崖からも見つかっている。

御岳(おんたけ)第1軽石と鬼界(きかい)葛原(とづらはら)火山灰の分布。それぞれが厚さ10センチメートル以上と2センチメートル以上降りつもった範囲を示した。データは町田・新井(2003、東大出版会)にもとづく。

 


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