伊豆新聞連載記事(2008年9月7日)

伊豆の大地の物語(54)

伊豆東部火山群の時代(14)門野と荻

火山学者 小山真人

 前回までに、伊東温泉街の南方にある一碧湖(いっぺきこ)、東大池(ひがしおおいけ)、梅木平(うめのきだいら)の3火山を紹介し、それらが10万3500年前に同時噴火したと説明した。これら3火山は、北西-南東方向に列をなしているように見える。
 一碧湖のさらに北西に目を転じると、そこにも火山がつくった地形や噴出物が複雑に折り重なる場所がある。詳しい現地調査の結果、そこに2つの火山の姿を明らかにすることができた。
 まず誰もが気づくのは、城山(しろやま)の東から伊東市鎌田(かまだ)付近にかけての伊東大川の右岸(東側)にある、厚さ50メートルを超える溶岩台地である。この溶岩が流れる前の大川の谷間は、もっと広々としていたと思われる。この溶岩を噴出したのが門野(かどの)火山である。
 別荘地「かどの台」の西半分が位置する三日月形の丘(最高点の標高217メートル)が、おそらく門野火山の山体の一部を占めるタフリングである。タフリングは、前回も説明したが、マグマと大量の地下水が出会うことによって発生する爆発的な噴火によってできたリング状ないしは円弧状の山体である。この丘の西側にあった火口から、噴火末期に大量の溶岩があふれ出して、大川の谷間を埋めたのだろう。
 門野火山の南東に隣接して、荻(おぎ)火山がある。伊東市荻から一碧湖方面に向かう道路の北側にある三日月形の丘が、やはりタフリングの一部と考えられる。同じタフリングの一部と思われる丘が、その北方の荻別荘地付近にもある。この両者の間にあった直径700メートルの火口を埋めた厚い溶岩の上に、荻別荘地の南東部分が位置しているとみられる。
 門野・荻の2火山に、すでに述べた一碧湖・東大池・梅木平の3火山を加えた5火山は、北西-南東方向の火山列をなしており、本連載第48回で説明した高塚山・長者原・巣雲山の3火山がつくる火山列と同様、同じ割れ目上に同時に噴火してできた火山列と考えられる。5火山のすべてが爆発的噴火をしたため、その火山灰は伊豆東部の広い範囲に降りつもっており、その厚さは大室山西側の「さくらの里」付近でも50センチメートル以上ある。

門野(かどの)・荻(おぎ)・一碧湖(いっぺきこ)・東大池(ひがしおおいけ)・梅木平(うめのきだいら)の5火山の噴出物分布図。200cmなどと書かれた楕円(だえん)は、これら5火山から降りつもった火山灰の厚さ分布を示す。

 


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