伊豆新聞連載記事(2008年8月31日)
火山学者 小山真人
前回述べた一碧湖(いっぺきこ)の南東に「梅木平(うめのきだいら)」と呼ばれる高台がある。地形図を見ると、不明瞭ながらも北西に開いたU字形をした丘の連なりがあり、最高点の標高は297メートルである。この丘の周囲には、火山弾を多数含む爆発角(かく)れき岩が見られ、この丘が爆発的な噴火によってできた火山と確認できる。この火山は、その地名から「梅木平火山」と呼ばれている。
伊東温泉街から国道135号線を南下すると、吉田の盆地を過ぎたあたりで上り坂となった道路は、梅木平火山の火口の北東縁を乗り越えて火口の中に入る。そして、ぐるりと火口原(かこうげん)を走った後に、今度は南西端を越えて火口の外に出る。信号に「梅ノ木平」と表示された交差点は、ちょうど火口の南西端に位置する。火口の直径は800メートルほどである。
梅木平火山をつくった爆発的噴火の性質は、前回述べた一碧湖や東大池(ひがしおおいけ)火山をつくった噴火と同じで、マグマが大量の地下水と触れあって起こした「水蒸気マグマ噴火」と呼ばれるものである。ただし、一碧湖と東大池が火口以外に目立った地形のない「マール」と呼ばれる種類の火山であるのに対し、梅木平は大きな火口のまわりにリング状の山体の高まりを確認できる。
このような火山は「タフリング」と呼ばれており、マールと同じく、世界中に多くの仲間が存在する。「タフ」は、火山灰などが固まってできた凝灰岩(ぎょうかいがん)を表す英語である。リング状の山体の一部が目立たない場合もあり、梅木平火山のようにU字形や、三日月形になることもある。おそらく世界でもっとも有名なタフリングは、ハワイのワイキキビーチの南東にある「ダイヤモンドヘッド」であろう。空から見るとリング状の山体が、まるでダイヤの指輪のようである。
梅木平火山から噴出した爆発角れき岩の中にも、一碧湖や東大池火山と同じく、箱根山起源のDa(ディー・エイ)-4軽石がはさまっている。このことは、梅木平火山が、10万3500年前に隣の一碧湖や東大池火山と同時に噴火してできたことを意味する。
梅木平火山は、噴火の末期に大量の溶岩流も噴出した。この溶岩流は主に東に流れて相模湾に入り、伊東市の土地をずいぶんと増やした。川奈ゴルフ場の南半分や、その南に広がる三野原(さんのはら)の台地がそうである。
大室山の山頂から見た小室山と梅木平(うめのきだいら)。左側の丸い山が小室山、写真の右半分を占める平らな丘が梅木平である。