伊豆新聞連載記事(2008年8月10日)

伊豆の大地の物語(50)

伊豆東部火山群の時代(10)箱根から来た軽石と火山灰

火山学者 小山真人

 箱根山は、伊豆半島の北に隣接する活火山である。50万年以上前から噴火を始め、とくに20万年前から4万年前の間は、軽石や火山灰の雨を降らせたり、規模の大きい火砕流を噴出するなどの爆発的な噴火をくり返した。
 こうした噴出物の多くは、噴煙とともにいったん空高く舞い上がるため、偏西風に乗って東に流れ、風下にあたる神奈川県下に厚く降りつもっている。幸いにして、伊豆半島は箱根山の南方に位置するため、まれに北よりの風が吹いた時にのみ、箱根山から噴出した軽石や火山灰が降りつもった。
 実際に、箱根山を起源とする軽石や火山灰の地層が伊豆半島で十数枚発見されており、そのうちの8枚は伊豆東部火山群の分布範囲の中にある。それらは、時代の古いものから順に、大仁黄色第1軽石(13万年前)、Da(ディー・エイ)-1軽石(12万6000年前)、大仁黄色第2軽石(11万8000年前)、大仁ピンク軽石(11万2000年前)、Da-4軽石(10万3500年前)、Da-5軽石(9万年前)、TPfl(ティー・ピー・エフ・エル)火山灰(6万年前)、三島軽石(4万8000年前)と呼ばれている。特定の地名が付けられたものもあれば、記号で呼ばれるものもある。いずれも黄色、オレンジ色、ピンク色などの明るい色調をもち、他の火山灰と容易に区別することができる。
 とくに、このうちのDa-1軽石、Da-4軽石、Da-5軽石、TPfl火山灰の4枚は、分布範囲が広いために伊豆の国市・伊豆市・伊東市などのあちこちで見つかる。このため、伊豆東部火山群の各火山を起源とする火山灰との上下関係がつかみやすく、それらの噴火年代を決める基準として利用することができた。たとえば、前回述べた日向(ひなた)火山から噴出した火山灰は、Da-1軽石のすぐ下にあるため、その噴火年代を12万9000年前と割り出せたのである。
 4万年ほど前になると、箱根山の爆発的な噴火活動は衰え、溶岩ドームをつくる噴火が主体となったため、伊豆にまで軽石や火山灰を降りつもらせることはなくなった。

伊豆の国市大仁(おおひと)付近の崖(がけ)に見られる地層。明るい色をした縞(しま)の1枚1枚が、箱根山の噴火によって伊豆に降りつもった軽石や火山灰の層である。

 


もどる