伊豆新聞連載記事(2008年7月27日)
火山学者 小山真人
これまで数回にわたって、伊豆東部火山群に属する高塚山(たかつかやま)、長者原(ちょうじゃがはら)、巣雲山(すくもやま)の3つの火山が、あいついで同時期に噴火したことを述べてきた。これらの3つの火山は、北西-南東方向に一列に並んでいる。
伊豆東部火山群に限らず、小さな火山や火口が一直線に並んで火山列(あるいは火口列)をつくる例が、あちこちで見られる。たとえば、伊豆大島の1986年噴火では、三原山(みはらやま)の山頂付近から北西山腹にかけて20個ほどの火口が開き、みごとな火口列を形成した。
こうした火口列の直下には板(いた)状の割れ目があり、その割れ目に沿ってマグマが上昇して噴火を起こしたことが、さまざまな観測事実からわかっている。実際に、そうした火口の内側に、マグマが板状に冷え固まった「岩脈(がんみゃく)」が観察できる例もある。マグマの通り道として円筒(えんとう)状のトンネルを想像する人が多いと思うが、実はそのような円筒状の通り道は、富士山の山頂火口など、長期間にわたって何度も噴火をくりかえした場所の地下にしか存在しない。
それ以外の場所に開くマグマの通り道は、ほぼ例外なく板状をしており、それが地上に達したいくつかの地点で噴火が起き、結果として火山列(あるいは火口列)を形成する。これは、マグマにとって板状の割れ目をつくる方が、円筒状のトンネルを掘るより、はるかに仕事量が少なくて楽なためである。
その場合の割れ目は、もっとも容易に開くことができる方向を見つけて開く。伊豆半島は、北西に進むフィリピン海プレートの運動によって本州に押しつけられ、地殻には北西-南東方向の強い力がかかっている。マグマにとっては、この方向に沿って伸びる板状の割れ目をつくり、それと直交する方向(つまり、北東-南西方向)に向かって地殻を押し広げることが最も楽である。こうした事情によって、伊豆東部火山群の火山列は、北西-南東方向に伸びたものが多いのである。
火山列と岩脈(がんみゃく)の関係。岩脈は、板状のマグマの通り道である。地殻に加わる力の向きとの関係も描いた。
富士山の宝永(ほうえい)火口の内壁に見られる岩脈(がんみゃく)の群れ。伊豆東部火山群の火山列の下にも、このような岩脈があると考えられている。