伊豆新聞連載記事(2008年7月13日)

伊豆の大地の物語(46)

伊豆東部火山群の時代(6)火山公園になった採石場

火山学者 小山真人

 前回、伊豆東部火山群のひとつである伊豆の国市の高塚山(たかつかやま)の採石場(さいせきじょう)跡が、火山の内部構造を肉眼で観察できる貴重な場所であると述べた。
 高塚山では、スコリアと呼ばれる岩石を採石していた。スコリアは、マグマのしぶきが冷え固まってできる、気泡の多い軽石状の小石のことである。軽石との違いは、軽石が白色や黄色など、色が明るいのに対し、スコリアは黒色や赤褐色など色が暗いことである。スコリアは、コンクリートに混ぜる骨材(こつざい)として有用な資源であるため、あちこちの火山で採掘されている。
 スコリアが大量に採掘できる場所は、当然のことながらスコリアが積み重なってできた「スコリア丘(きゅう)」と呼ばれる火山体であり、伊豆東部火山群では高塚山の他に東伊豆町の堰口(せきぐち)火山などにも採石場が作られており、やはり内部構造がよく観察できる。
 このような状況は、国外も例外ではない。フランスやドイツなどには伊豆東部火山群とよく似た小火山群があり、やはりスコリア丘を切り崩した採石場がつくられている。
 このうち、フランス中部のクレルモン・フェラン市の郊外には、3万年ほど前に噴火してできたピュイ・ド・ロンテジーと呼ばれるスコリア丘があり、その大半を切り崩した採石場跡がある。やはり火山のみごとな内部構造が観察できる特徴を利用し、この採石場跡地は今では立派な公園として整備され、多くの観光客が訪れている。その名もフランス語で「ヴォルカン・ア・シエル・ウヴェール(空に開かれた火山)」、つまり「火山のオープンエア・ミュージアム」である。
 日本の採石場の多くは採石終了後に捨て置かれているが、実は素晴らしい地層観察地である例が多く、非常にもったいない話なのである。高塚山も跡地の荒廃による環境悪化や災害が心配されたらしいが、伊豆の国市にとっては宝の持ちぐされである。ぜひ天然記念物の指定を受けた上で、火山公園としての整備を考えてほしいと思う。

フランス中部にある「火山のオープンエア・ミュージアム」の看板。火山の断面図が描かれている。

 

「火山のオープンエア・ミュージアム」の崖の前には、このような美しい解説看板がいくつも立てられ、観光シーズンにはガイドが案内してくれる。資料館やミュージアムショップも併設された、魅力的な施設である。


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