伊豆新聞連載記事(2008年7月6日)
火山学者 小山真人
高塚(たかつか)山(標高369メートル)は、伊豆東部火山群の中で最北端に位置する火山である。伊豆の国市の田中山付近の、宇佐美-大仁(おおひと)道路を大仁側から入って東に4キロメートルほど進んだ地点から、さらに1キロメートルほど北の台地上にある。
高塚山は、東西700メートル、南北500メートルの扁平(へんぺい)なドーム状の火山で、底からの高さは70メートルほどである。噴火の際にあふれ出した溶岩流が、北と南に数百メートル流れ下っている。前回と前々回で説明した通り、高塚山から噴出した火山灰が巣雲(すくも)山の火山灰を直接おおうことから、高塚山の噴火年代は、巣雲山とほぼ同じ13万2000年前であることがわかる。
高塚山の南半分は、かつて大仁町営の採石場(さいせきじょう)として切り崩され、現在では元の山体の北半分だけが残っている。今は草木が茂って見えにくくなったが、採石場跡地の崖(がけ)では、火山体の内部構造がよく観察できた。
その西端には、多数の火山弾をふくむ縞々(しましま)の地層が見られ、マグマと地下水が触れあって激しい爆発をしてできたものとわかる。そして、その地層をすっぽりとおおう形で、赤色ないしは黒色のスコリア(暗い色をした軽石のこと)が厚く降りつもっている。
つまり、高塚山をつくったマグマは、最初に地下水とふれあって爆発的な噴火を起こし、地下水が涸(か)れた後は、溶岩のしぶきを噴水のように噴き上げ、火口のまわりにスコリアを積もらせたことがわかる。これらのスコリアは、山体の中央部では火口付近の高熱によって赤く焼かれており、その一部は溶けてくっつき合っている。
ふつう私たちが火山の内部を直接見ることは不可能であるが、小さな火山で、しかも採石場という特殊事情があったために、高塚山ではそれが可能となり、貴重な学術成果がもたらされた。そうした意味で、今も残る高塚山の採石場跡の崖は、伊豆の国市にとって天然記念物級の財産なのである。
高塚山の崖(がけ)全体の見取り図。火山の内部構造が直接観察できる。
高塚山の崖の一部。初期の爆発的噴火によってできた見事な地層。