伊豆新聞連載記事(2008年6月29日)

伊豆の大地の物語(44)

伊豆東部火山群の時代(4)火山灰の追跡

火山学者 小山真人

 前回,巣雲山(すくもやま)の火山灰の上に、別の3枚の火山灰が直接重なることから、巣雲山と同じ13万2000年前に噴火した火山が3つあると説明した。3枚の火山灰の内訳は、(A)巣雲山の火山灰の直上をおおうスコリア(暗い色をした軽石)の層、(B)そのスコリア層の最上部にはさまれている薄くて青白い色をした軽石層、(C)さらにそれらすべてをおおう茶色い縞々(しましま)の火山灰層である。これらは、いったいどこの火山から噴出したものだろうか?
 ある火山灰を噴出した火山がどこであるかをさぐるためには、1ヶ所だけを見ていてはダメで、広い範囲にわたって同じ火山灰を追跡し、その厚さや粒の大小を調べる必要がある。それが空から降ってきた火山灰であれば、それを噴出した火山に近い場所ほど厚くなり、含まれる粒のサイズも大きくなるのが普通である。これは当然のことで、火口に近い場所ほど降る量が多い上に、大きい粒ほど遠くまで移動できずに火口の近くに落ちてくるからである。また、火口のきわめて近くであれば大きな火山弾が飛んでくる場合もあるので、逆に火山弾が見つかれば、その場所が火口の近くであると判断できる。
 注意深い調査の結果、上の(A)のスコリア層と(C)の火山灰層を噴出した火山は、それぞれ伊豆の国市の宇佐美-大仁(おおひと)道路ぞいにある高塚山(たかつかやま)火山と長者原(ちょうじゃがはら)火山であることがわかった。両火山とも伊豆東部火山群の一員であり、次回以降に詳しく説明する。
 (B)の青白い軽石層は、調査範囲のどこでも厚さが20センチメートル以内と薄く、粒の大きさもほぼ同じであった。これは、この軽石層が、伊豆東部火山群の外から飛んできたことを意味する。実は、この軽石層は神奈川県平塚市付近でも同じものが見つかっており、KlP4(ケイ・エル・ピー・フォー)と記号で呼ばれている。伊豆東部火山群や箱根火山の噴出物には含まれない角閃石(かくせんせき)と呼ばれる鉱物が含まれており、KlP4を噴出した火山の正体はいまだに不明である。愛鷹山(あしたかやま)か、あるいは富士山の下にあった古い火山かもしれないが、明確なことはまだわからない。

高塚山スコリア層の最上部にはさまれる青白い軽石層(KlP4)。ここでの厚さは20センチメートル。伊豆の国市高塚山。


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