伊豆新聞連載記事(2008年6月22日)

伊豆の大地の物語(43)

伊豆東部火山群の時代(3)巣雲山

火山学者 小山真人

 巣雲山(すくもやま)(標高581メートル)は、伊豆市と伊東市の境界をなす南北の稜線上、亀石(かめいし)峠の南2キロメートルほどの場所にある小さな火山である。この稜線に沿って走る伊豆スカイラインは、巣雲山の高まりを避けるように西に凸のカーブを描いている。
 この稜線をつくる山々は、本連載の第34回で説明した宇佐美火山が浸食され残った部分にあたるため、不規則でぎざぎざした形をしているが、巣雲山だけは丸みを帯び、遠くからでも見分けがつく。これは、巣雲山が宇佐美火山よりもずっと新しい伊豆東部火山群の1火山であり、できた当時の原型を保っているからである。巣雲山が噴火してできたのは、前回説明した遠笠山(とおがさやま)より少し新しい13万2000年ほど前である。
 巣雲山は、東西700メートル、南北500メートルほどの扁平(へんぺい)なドーム状の山体をもち、底面から山頂までの高さは130メートルほどである。大室山のように典型的なプリン状をしていないが、大室山と同じ「スコリア丘(きゅう)」と呼ばれる単成(たんせい)火山の仲間である。このことは、伊豆スカイラインぞいにある大きな崖で確かめられる。この崖は、道路をつくる時に巣雲山の北東斜面の一部を切り崩して作られたものであり、スコリア丘の内部構造がよく観察できる。美しく層をなした赤褐色ないしは黄褐色のスコリア(暗い色をした軽石)は、火口からいったん空中に噴き上がったマグマのしぶきが、火口のまわりに降りつもったものである。
 巣雲山から噴出した火山灰の分布を調べていくうちに、巣雲山の火山灰の上に、別の3枚の火山灰が直接重なることに気づいた。火山灰同士が直接重なるということは、それらが休止期間をはさまずに、ほぼ同時に噴火して降りつもったことを示す。つまり、巣雲山と同じ13万2000年前に噴火した火山が、近くに3つあることがわかったのである。それらの正体を次回以降に語っていこう。

西側から見た巣雲山。

 

伊豆スカイラインぞいの崖で見られる巣雲山火山の内部構造。スコリアと呼ばれる火山れきが、美しい縞(しま)模様を見せている。


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