伊豆新聞連載記事(2008年6月8日)

伊豆の大地の物語(41)

伊豆東部火山群の時代(1)群れをなす小さな火山たち

火山学者 小山真人

 本連載の第32回で述べたように、火山には大きく分けて複成(ふくせい)火山と単成(たんせい)火山の2種類がある。複成火山は、ほぼ同じ場所から休止期間をはさみつつ数万〜数十万年間にわたって噴火をくりかえし、結果として大型の山体をつくる火山である。富士山、箱根山や、前回まで説明してきた伊豆を代表する大型火山たちが、これにあたる。一方、単成火山は一度だけ噴火して小型の山体をつくった後に、同じ火口からの噴火をやめてしまい、次に噴火する時は全く別の場所に新しい火口をつくる。
 15万年前以降の伊豆半島では、なぜか「鎮火」してしまった大型の複成火山の代りに、大室山に代表される単成火山があちこちで噴火するようになった。その結果として小型火山の群れ(伊豆東部火山群)ができ、今日に至っている。この火山群に属する火山は、伊豆半島の東半部(伊東市、東伊豆町、河津町、伊豆市、伊豆の国市)に全部で60あまり分布するほか、伊豆半島と伊豆大島の間の海底にも存在する。
 単成火山には、大きく分けて3つの種類がある。それらは、スコリア丘(きゅう)、タフリング(あるいはマール)、溶岩ドームである。
 スコリア丘は、ねばりけの少ない溶岩が噴水のように噴き上がり、溶岩のしぶき(スコリア)が火口のまわりに降りつもってできる小さな火山であり、山頂に火口をもつことがある。伊豆東部火山群では、伊東市の大室山と小室山、伊豆市の鉢窪山(はちくぼやま)、河津町の鉢ノ山(はちのやま)などの数多くの例がある。
 タフリングは、マグマが多量の地下水や湖水などと触れあって激しい爆発を起こしてできるリング状の火山であり、同種の火山でリング地形が目立たずに火口の穴だけが目立つものをマールと呼ぶ。マールの典型例は伊東市の一碧湖(いっぺきこ)であり、タフリングの例はやはり伊東市の梅木平(うめのきだいら)を挙げることができる。
 溶岩ドームは、ねばりけの多い溶岩が火口のまわりに盛り上がってできる小丘である。伊東市の矢筈山(やはずやま)、伊豆市の岩ノ山(いわのやま)などが該当する。

伊豆東部火山群の分布図。太字は主要な火山の名前。点線は同時噴火した火山列を結ぶ噴火割れ目。細い線は主要な道路。


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