伊豆新聞連載記事(2007年9月23日)
火山学者 小山真人
伊豆半島最古の地層である仁科(にしな)層群は、伊豆の他の多くの地層がそうであるように、かつての海底火山がその後隆起して陸上に姿を現したものである。その証拠として、前回説明した枕状(まくらじょう)溶岩のほかに、水底(すいてい)土石流(どせきりゅう)と呼ばれるものがある。
陸上で起きる土石流は、大雨などの際に崩れた土石が水と入り交じって一気に押し寄せる流れである。海底や湖底でも同様の現象発生が知られており、まとめて水底土石流と呼ばれている。陸上で起きた崖崩れや土石流がそのまま海や湖へ流入したり、大地震や火山噴火などによって大量の土石が一気に水中で崩れたりすることが、水底土石流の発生原因と考えられている。
陸上の土石流は、さまざまな大きさの岩・砂・泥などが混然一体となった堆積物を残す。これに対し、水底土石流には水の作用が働くため、重くて大きい岩が先に沈み、軽くて小さい土砂は後から降りつもる。この作用のため、1回の水底土石流でたまった地層を見ると、下の方に大きくて重そうな岩がたくさんあり、上の方に軽そうな土砂が集まっている。このような特徴をもった地層の積み重なりを、仁科川の河口から北東4キロメートルの西伊豆町一色(いしき)から同6キロメートルの西伊豆町出会(であい)付近までの川沿いや山中に見ることができる。地層中に含まれる岩片の中には、噴出したばかりの熱い溶岩が海水に触れて急冷してできた特徴をもつものもあり、遠い昔に起きた海底火山の噴火を生き生きと思い描くことができる。
水底土石流の地層の最上部には、最後にゆっくりと降りつもった薄い泥の層が見られる場合がある。この泥の中から、かつての海中で生息していた微生物(石灰質ナンノプランクトン)の化石が見つかり、その特徴から仁科層群の年代(化石を含む地層が約1700万年前、さらに下にある古い溶岩がおそらく2000万年前)を確定することができた。
海底火山の噴火でできた水底土石流の地層(西伊豆町出会)。今はコンクリートにおおわれてしまったが、かつて県道沿いにあったこの崖の中から、伊豆半島最古のプランクトンの化石(1700万年前)が見つかった。