伊豆新聞連載記事(2008年5月18日)

伊豆の大地の物語(38)

陸上大型火山の時代(7)蛇石・南崎火山

火山学者 小山真人

 松崎の町から国道136号線を南にたどると、しばらくは海岸ぞいを走るが、雲見を過ぎたあたりで山にのぼり、南伊豆町の子浦付近までなだらかな高原上を走ることになる。このあたりはマーガレットラインと呼ばれる風光明媚な道路であり、途中から西に折れて海岸に下ると、野猿で有名な波勝(はがち)崎にも行ける。この高原をつくった火山は、付近の地名にちなんで蛇石(じゃいし)火山と呼ばれている。
 蛇石火山は140万〜130万年前ころの噴火でできた古い火山であり、浸食が進んでいるため元の大きさや山頂の位置は不明である。その地形は火山特有のなだらかな丘陵をなしており、最高点は520メートルである。
 さらに国道136号線を子浦から南にたどろう。妻良(めら)を過ぎ、差田(さしだ)から国道を離れて石廊(いろう)崎へと向かう。中木を過ぎて、断崖絶壁の海岸を右手に見下ろしながら、石廊崎に向かってぐるりと東に向きを変えた時、道路は標高50〜100メートルほどの小さな高原の中に躍り出る。
 この高原は「池の原」と呼ばれ、石廊崎付近の険しい地形の中にあって、海岸の絶壁に面した小さなテラスのような優雅な景観をそなえている。ここはユウスゲの花が咲く名所でもあり、奥石廊ユウスゲ公園として整備されている。蛇石火山がつくった高原の10分の1にも満たないちっぽけなテラスであるが、この地形も火山の産物である。大きさから言って、伊豆の陸上大型火山の仲間に加えるのは相当気が引けるが、南側は浸食されて海となっているため、当初の大きさはわからない。
 およそ40万年前に噴火してできたこの火山は、南崎火山と呼ばれている。「なんざき」と読まれることが多いが、「みなみざき」が本来の読み方のようである。南崎は石廊崎の別名らしいので、場所から言えば「池の原火山」が妥当であろう。
 いずれにしろ、この火山が専門家の間で少々有名なのは、その岩石の特異さからである。みかけは何の変哲もないが、化学成分上は「アルカリ玄武岩」という種類に属し、通常はプレートの沈み込み境界から遠く離れた場所に出現する火山岩である。この特殊な岩石がここで噴出した理由は、よくわかっていない。

石廊(いろう)崎の西にある「池の原」。火山がつくった小さなテラス地形である。


もどる