伊豆新聞連載記事(2008年5月4日)
火山学者 小山真人
伊豆半島の北西部にひときわ高くそびえる達磨(だるま)山は、天城山と共に伊豆を代表する大型火山のひとつであり、100万〜50万年前の噴火でつくられた。駿河湾に面した西側の斜面には、浸食によって大きくえぐられた谷間ができており、その出口に戸田(へだ)港がある。かつての山頂部分もすでに失われたため、西伊豆スカイランぞいにある現在の山頂(標高982メートル)は、現存する山体の最高部分という意味しかない。おそらく元は標高1300メートルほどの雄大な山体が、西は戸田港沖と北は西浦沖の駿河湾内にまで裾(すそ)を広げていたとみられる。
一方、達磨山の東斜面には、元の火山地形である緩やかな斜面が修善寺付近にまで広がっている。修善寺から戸田までドライブした人なら誰でも気づくことであるが、修善寺から戸田峠まではカーブのほとんどない緩やかな上り坂が続く。これは達磨火山の裾にあたる部分を登っているからである。ところが、戸田峠を越えたとたんに、道はつづら折りの急な下り坂となる。これは、元の火山斜面が浸食でえぐられた急峻(きゅうしゅん)な谷間に降りていくためである。
達磨火山と接する形で、その北西側に井田火山と大瀬崎(おせざき)火山がある。井田火山は達磨火山よりやや新しい火山(噴火期間は80万〜40万年前)であるが、激しい浸食を受けたために元の山体をほとんど残していない。達磨火山と同じく、浸食によってできた大きな谷間が西の海岸へと伸び、その出口に井田の町がある。
大瀬崎火山は、大瀬崎の南の山地にのみ噴出物の分布が確認できる火山である。山体のほとんどは浸食によって失われたため、元の大きさは定かでない。井田火山の噴出物におおわれることから、井田火山よりやや古いと考えられる。
大瀬崎から土肥(とい)付近に至る海岸の崖には、ここで紹介した3火山の噴出物の積み重なりがよく観察できる。とくに船からよく見えるので、駿河湾フェリーや高速船ホワイトマリンに乗船した際には、崖に見える地層の模様に気をとめてほしい。
西側の駿河湾上から見た達磨(だるま)山。浸食によって深い谷間がきざまれ、その出口に戸田港(写真手前の町)がある。