伊豆新聞連載記事(2008年4月27日)

伊豆の大地の物語(35)

陸上大型火山の時代(4)天城・天子火山

火山学者 小山真人

 伊豆半島の最高峰である天城山(あまぎさん)は、伊豆を代表する大型火山のひとつであり、80万〜20万年前の噴火でつくられた。相模湾に面した南側の斜面はすでに深く浸食されて元の地形をあまり残さないが、河津町見高(みだか)の台地などは、元の溶岩流の表面に相当する平坦面と考えられる。
 一方、天城山の北半分にあたる伊豆市・伊東市側には、火山特有のなだらかな裾(すそ)を引いた斜面が広がり、数多くの溶岩流地形がはっきり残っている。とくに見事なのが、伊豆市冷川(ひえかわ)から八幡(はつま)までの冷川の南岸にあるT字形の台地や、同じく伊豆市姫之湯(ひめのゆ)の東にある大見(おおみ)川と地蔵堂川にはさまれた細長い台地である。これらの台地は、厚さが50メートルもある溶岩流が北に向かって流れてできた地形である。
 天城山は、他の伊豆の大型火山と同様、元の山体のかなりの部分(とくに南部)が浸食によって失われたため、元の山頂の位置が明確でない。現在の最高点は標高1406メートルの万三郎(ばんざぶろう)岳であるが、かつての山頂はさらに南側のどこかにあり、標高も2000メートル近くあったと思われる。天城峠の東にある八丁池(はっちょういけ)は、俗に天城山の「火口湖」と言われるが、地形的に見て本当に火口湖かどうかは疑わしい。
 なお、天城山中には、火口や小火山や溶岩流など、さらに新しい時代の火山地形が多数見られる。それらは、かつて天城山のものとされた時期があったが、現在では伊豆東部火山群に属すると考えられている。
 天城山の北側に、狩野(かの)川と大見川にはさまれた丘陵地があり、天城山とは独立の山塊(さんかい)をなしている。この丘陵地には、陸上火山の特徴をもつ溶岩流などの火山噴出物が分布しており、丘陵地の最高点である標高608メートルの天子(てんし)山にちなんで、天子火山と呼ばれている。
 天子火山は、およそ100万〜40万年前に噴火してできた古い火山である。浸食によって元の火山地形がほとんど失われており、かろうじて修善寺カントリークラブのある平坦面に、火山であった面影を残している。

天城峠の北の林道ぞいに見られる天城火山の溶岩流。冷却時の収縮によってできた美しい板状の節理(せつり)が見られる。


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