伊豆新聞連載記事(2008年4月6日)

伊豆の大地の物語(32)

陸上大型火山の時代(1)並び立つ火山(上)

火山学者 小山真人

 本連載の第27回で説明したように、およそ100万年前を最後にして、伊豆から海の地層が姿を消した。伊豆全体が陸地になったのである。そして、そこに出現したのが、現在も山としての地形を残す大型の火山たちである。それらは、おおよその大きさ順に天城(あまぎ)、多賀(たが)、達磨(だるま)、棚場(たなば)、宇佐美、湯河原、猫越(ねっこ)、天子(てんし)、井田、蛇石(じゃいし)、長九郎(ちょうくろう)、大瀬崎(おせざき)、南崎の13火山である。
 これらの大部分は、複成(ふくせい)火山と呼ばれる種類の火山である。複成火山は、ほぼ同じ場所から休止期間をはさみつつ数万〜数十万年間にわたって噴火をくりかえし、結果として大型の山体をつくる火山である。伊豆周辺では、富士山、箱根山、愛鷹(あしたか)山、伊豆大島なども複成火山の仲間である。
 富士山・箱根山・伊豆大島の3火山は、活火山に分類され、今後も噴火する可能性を秘めている。ところが、伊豆半島にある大型火山13峰は、どういうわけか15万年ほど前までに噴火をやめてしまい、活火山に分類されるものはひとつもない。
 15万年前以降の伊豆半島では、「鎮火」してしまった大型火山の代りに、大室山に代表される小さな火山があちこちで噴火するようになった。その結果として小型火山の群れ(伊豆東部火山群)ができ、今日に至っている。こうした小型火山は、一度だけ噴火した後に、同じ火口からの噴火をやめてしまい、次に噴火する時は全く別の場所に新しい火口をつくる。この種の火山を、複成火山に対して、単成(たんせい)火山と呼ぶ。
 伊豆東部火山群のマグマは、現在も地下で時おり活動を続け、伊豆東方沖群発地震を起こしている。1989年7月には伊東沖で海底噴火を起こし、新しい単成火山である手石海丘(ていしかいきゅう)を誕生させた。こうした事実から、伊豆東部火山群は活火山のひとつに数えられている。
 以上をまとめると、陸化した後の伊豆で生じた火山活動は、およそ15万年前を境として2つに分けられる。15万年前より古い大型火山(複成火山)の活動と、15万年前以降の小型火山(単成火山)の活動である。次回以降、まずこのうちの大型火山が残した痕跡をたどることにする。

およそ100万年前以降に伊豆とその周辺で噴火した火山の分布。大型の火山と、小型の火山(伊豆東部火山群)に分けて示した。伊豆東部火山群は、伊豆半島と伊豆大島の間の海底にも分布する。海域の等深線の間隔は500メートル。


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