伊豆新聞連載記事(2008年2月10日)

伊豆の大地の物語(24)

伊豆近海の海底を掘る(3)

火山学者 小山真人

 本連載の第1回で、伊豆の大地がプレート運動に乗って南から長い距離を移動してきたことを述べ、その理由として現在のプレート運動から逆算した結果であると説明した。また、連載第九回では、伊豆の地層から南洋種の化石が発見されることは、かつて伊豆が南洋にあった証拠であると述べた。しかし、実は伊豆のかつての位置については、もっと直接的な証拠が得られている。それは、連載第11回で説明した岩石の微弱な磁気を測る方法による成果である。
 地球の磁場は、棒磁石のもつ磁場とほぼ同じ形をしているので、磁力線の方向は赤道付近で水平向き、両極付近で垂直となる。極と赤道の間での磁力線の下向き角度(伏角(ふっかく)と呼ぶ)は緯度によって異なり,極に近くなるほど高角となる。日本付近の緯度での伏角は約五十度である。方位磁石の磁針が水平に見えるのは、S極側におもりをつけて強制的に水平に戻しているからである。
 岩石ができた当時の地球磁場の向きと強さは、微弱な磁気として岩石中に記録される。よって、逆に岩石のもつ微弱な磁気を測定することで、その伏角の情報から岩石ができた場所の緯度が推定できるのである。
 伊豆のあちこちの地層に含まれる岩石や、前回説明したジョイデス・レゾリューション号によって伊豆七島近海の海底から採取された岩石、ならびにフィリピン海プレート上の他の海底や島々で採取された岩石のすべてが、時代の新しいものほど緯度の増加を示している。このことは、伊豆だけでなく、伊豆七島・小笠原諸島・マリアナ諸島や,その周辺の広い範囲の海底を含むフィリピン海プレート全体が、過去4000万年以上にわたってプレート運動による北上をおこなってきたことを意味している。ただし、伊豆の地層から得られた緯度のデータは、変質の影響のために信頼性に乏しかった。グラフ上で,伊豆が伊豆七島近海を追い越して北上したように見えるのは,おそらくそのためである.ジョイデス・レゾリューション号のデータによって、ようやく信頼に足る結果を補えたと思っている。

地球磁場の磁力線の向き。赤道から北極に近づくほど、下向きの角度(伏角(ふっかく))が大きくなる。

 

フィリピン海プレート上の各地で採取された岩石の磁気から推定された緯度。代表的な結果のみを示した。横軸は岩石の年代。


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